第八十五話
今日はメールでヒカリさんに呼ばれて映画撮影を行う日です。
真夏は朝から気温が高い。
朝の十時頃に藍嶺大学の校門の前で待ち合わせです。
どんな撮影になるのかちょっと不安でしかない。
「よっ、カスミ! おはよう~」
ヒカリさんが五分ほど遅れて姿を現した。
「おはよう~」
私はヒカリさんの雰囲気を感じ取って言葉を合わせた。
二、三日間ほど会わないと、壁ができたようによそよそしくなってしまうのは私の悪い癖だと思った。
「監督と呼んでくれたまえ。台本は読んでくれたよね? カスミは真理役だから」
ヒカリさんは両手を腰に当てながら言った。
「はい、監督」
私もそのシチュエーションに合わせてそう呼んだ。
「今日はね、撮影一発目だから緊張しないようにね。とりあえずコレが真理役の衣装だから」
ヒカリさんは何かの衣装が入った大きな紙袋を私に向かって突き出した。
「衣装? えっ? 衣装があるの?」
私は紙袋の中に入っている服を見た。
「ヒロインと言えば、やっぱり白いワンピースでしょ! これ着て」
ヒカリさんは私をじっと見つめた後に笑顔でそう言った。
「う、うん」
あんまりワンピースを着たことがない私には似合うかどうか分からなかった。
事務局のトイレを借りて、ワンピースに着替えてきた。
このワンピース、よく見るとノースリーブだ。歩くとスカスカする。
「ピッタリで良いじゃん! 似合ってる! ツーサイドアップはそのままでね。これはチャームポイントだから」
ヒカリさんは着替えた私を見て嬉しそうに言った。
「そ、そうかなぁ」
私はお腹の部分がフワついて気になっていた。
「細い皮のベルトがあるから、これで軽く結んでみたら良いんじゃない?」
「うん、良いかも」
「良し! それじゃあね。撮影始めるから」
「うん」
「カスミが並木道を歩いているのを撮るから。とりあえず一周してみようか。歩き方はこんな感じで」
ヒカリさんは景色を見渡す感じで歩いていた。
「うん、わかった」
「途中、コケても良いからね。NGシーンで流すから」
「アハハっ、それだけは止めて」
「緊張せずに自然な感じでゆっくりと歩いてね。この歩きのシーンでナレーションを入れるから、特に台詞は無いから安心して。あと、カメラに視線を合わせないようにね」
「うん。リクエストがあったら言ってね」
私は言われた通り、景色を見渡す感じでゆっくりと歩き始めた。
夏休みで誰も歩いていない銀杏の並木道に沿って進んでいく。ワンピースだと日陰は丁度良いけど、日向に出るとやっぱり暑い。
ヒカリさんはスマートフォンを長い棒に取り付けて、私を前から後ろから上から下からと色々な角度で撮影していた。
一番奥の棟までゆっくり歩いて、校門まで戻ってきたら約三十分ほど過ぎた。
「カスミは汗かかないね。この暑さの中でも涼しい顔してる。私は汗だくだよ」
ヒカリさんはハンカチで顔の汗を拭きながら、私の顔を見て言った。
「ノースリーブだからかな」
暑いと思うけど私は平気だったりする。でも、寒いのはとても弱い。
「撮影した映像を一回確認するわ。カスミは休憩してて良いよ。はい、これをあげる」
ヒカリさんはスマートフォンを片手で操作しながら、鞄からペットボトルのお茶を私に向かって突き出した。
「良いの? ありがとう」
私はお茶を受け取って、ゆっくりと飲んだ。
「私は監督で、脚本家で、撮影係で、編集係で、衣装係で、アシスタントだから」
思っていたより簡単な撮影で良かった。でも、まだこれから大変になってくるのかな。いつも取り越し苦労が多いのかもしれない。




