第八十四話
夏休み中のバイトはいつもよりバイトの開始時間が二時間も早く、十六時から二十二時のシフトになる。
今月はまたキッチン担当に戻った。バイトの研修期間も終わったので、一人前として立ち振る舞うように頑張らないといけない。
七町珈琲も喫茶店なので忙しい時間帯があって、開店の朝七時から九時、昼の十一時から十三時、夜の十八時から二十時の食事時は来店されるお客さんが多くてとても忙しい。それ以外の時間帯はお客さんもまばらで暇だったりする。
暇だけど材料の補充や仕込みなど、空いている時間にしておく事は多い。
「いらっしゃいませ! あれっ、ヒカリじゃん!」
ホール担当のアカリさんの声が聞こえた。
その声に私はカウンターから少し覗いてみた。
ヒカリさんが話しているのが見えた。キッチンにいても何となく会話が聴こえる。
「カスミいる?」
「いるよ。奥のキッチンで作業している」
アカリさんはこちらを指さした。
「カスミ、カワイイー! 制服が似合っているし、髪型が可愛いね」
私を見つけたヒカリさんは黄色い声を出した。
「ありがとう」
私は褒められて嬉しいので少しはにかんだ。髪型はいつもと変わらないはずだけどね。
「オシャレで良いね、カフェバイト。私もしようかな」
ヒカリさんは楽しそうな表情で言った。
何だかリオもよく似たことを言っていたような気がした。
「今日はね、これを渡しに来たの。出来立てよ」
ヒカリさんは鞄の中から薄い本を取り出した。
「あっ、台本」
私は出来立ての台本を受け取って嬉しかった。でも、台本が出来たということは映画撮影が始まるってことなので緊張感を感じ始めた。
「撮影スケジュールはメールで連絡するからね。台本を読んで台詞を覚えておいて。台詞は少なめにしているから」
ヒカリさんは台本を小突きながら笑顔で言った。
「うん」
私は撮影について色々と考えている事が頭を巡っているけど、何一つ返事ができなくて素直に頷いた。
「私も一緒に行けば良いよね? 何を着ていこうかな」
アカリさんは私とヒカリさんの間に顔を寄せて言った。
「アカリはナレーションでしょ。ナレーションはアフレコよ、アフレコ。撮影が終わってからの出番だから」
ヒカリさんはマイクで話すようなジェスチャーをした。
「えー、出番まだなのー、つまらないー」
アカリさんは子供のように頬を膨らませた。
それを見ていた私は、ヒロイン役をアカリさんに代わってあげたいと本当に思った。アカリさんならきっと良い撮影になるだろうと思っている。
ヒカリさんは用事だけ済ませて風のように去っていった。




