第八十三話
私は“嫌な記憶”に対して想像をした。私なりに考えて導き出した苦肉の策を想像した。
“嫌な記憶”の中に新しい“想像の私”を創造した。
私の瞳は怒りに満ちてレッドサファイアのように赤く光っていた。
大学の掲示板の前で黒塚君が一人で立っていた。片手を上げながら、何かを言って喜んでいる。
私は座っていたベンチから立ち上がり、黒塚君から目を離さずにゆっくりと近づいた。徐々に歩く速度を上げて、鞄から取り出した曲刀を抜刀とともに一瞬で振り抜いた。
黒塚君の頭が地面に落ちる硬い音と、力が抜けた身体が倒れる重い音が鳴り響いた。
そして、曲刀を身体に突き刺して心臓を貫いた。
これで良い。
しばらくその血に染まった肉の塊を睨みつけていた。心が汚いと血も汚い。
風が急に流れて、ツーサイドアップの髪がゆらりとなびいた。
空に流れる白い雲を眺めていると、やるせない気持ちが溢れてきた。
正直者が馬鹿をみる……。
こいつを殺しても、正直者が馬鹿を見る世の中は何も変わらない。この世の中を破壊するか、それとも……。
私は曲刀を自分の首元に押し当てた。
こんな世の中……、正直者が馬鹿を見ることを認める世の中なんて、私は生きてはいけない。
でも、私にはしなければいけない事がある。
私は曲刀を引くことはできず、ゆっくりと首元から離した。
また風が流れた。今度は逆風だ。この世の中でも私には逆風しか吹かないのかもしれない。




