第七十七話
広い教室の前にある黒い黒板には、席の順番と苗字が描かれていた。いつもは自由に座って良いから教室の真ん中の席に座っているが、今日は席は名前の順だから、いつも座っている席とは違う。
月曜日の今日から金曜日までがテスト期間。科目数が多いので期間も長い。一日に二教科か三教科のテストだから午前中で終わり。
今日は心理学(基礎Ⅰ)、数学Ⅰ、国語の三教科。いきなり難関っていう感じ。
指定の席に座ってテストが始まるまでノートを見直していると急に緊張してきた。テスト勉強したのに自信が持てない。テスト直前はいつもそうだ。ちゃんと問題が解けるかどうか不安が大きい。
やっぱり心理学の専門用語の問題が出てきた。
頭の中でノートにまとめた内容を思い出す。去年は大学受験でひたすらに覚えたけど、大学に入ってから自分の記憶容量が少なくなってそうで心配だった。
私の右前の席に黒塚君が座っている。
いつも遅刻してきて、講義も聞かずに眠ってサボっているから、今回のテストでは全然駄目だろうなと思った。
テスト中にふと、黒塚君の不審な動きに気がついた。小さな紙みたいなのを出して、それを見ながら書いている。すぐにカンニングペーパーだと分かった。
周りは全然気づいていない。
カンニングなんて卑怯な不正行為をする人間は最低だと思った。
そんな事より自分のテストの方が大切だから、今は問題を解く事だけに集中したい。黒塚君のカンニングは早く先生に見つかってくれないかな、と思った。
「どの教科も難しかったね。心理学はできたけど、数学が苦手だわ。大学生になってまで共通科目はいらないわ」
今日のテストが終わって、アカリさんが近づいてきた。
「難しかったね。あんまり自信ない」
私は筆記用具を鞄に入れながら答えた。
そういえば、私は“ぶつかった人”の苗字が分かるのではないかと思った。
“ぶつかった人”も同じ学部なので、座っている席をアカリさんに気づかれないように、その場で見まわして探した。私の席よりも右側の後ろの方に座っているのが目に入った。黒板に描かれた席の場所を見つけた。そこには“長良”と書かれていた。
「カスミ、どうしたの?」
アカリさんは私のちょっとした動きに気づいた。
「ううん、なんでもない」
私は気づかれないようにごまかした。
アカリさんと私の所へヒカリさんとユメさんが集まった。
「今日はどこかで食べて帰ろっか?」
ヒカリさんは両手を上げて背伸びをしながら言った。
私は早く家に帰って、明日のテスト勉強がしたかったけど、一緒についていった。




