第七十五話
今日の放課後は大学付属図書館で勉強をしている。
七月に入ったらテストが始まる。高校生の時は三学期に分かれていたけど、大学は前期と後期に分かれているので試験範囲がとても広い。
教科書を捲って授業で習った頁を確認していくと、ほとんど教科書一冊だった。
ちょっと広すぎるよね……。
私は頭の中で教科の科目数を指で数えてみた。共通科目が四科目、専門科目が八科目もある。それぞれの科目で教科書一冊ぐらいの試験範囲があるから、これは教科書を見直すだけでも結構な時間が掛かりそう。
自分の勉強をする時間もしばらくはテスト勉強の時間に充てないと間に合わないと思う。
ふと、目線の先に離れたテーブル席に座っている“ぶつかった人”が見えた。また宇宙の本を読んでいるのかな。
急に“ぶつかった人”が振り返ったので、私と目が合って心臓がどきりと鳴った。恥ずかしかったので私は慌てて目をそらした。
“ぶつかった人”は立ち上がって、こちらに向かって歩いてきた。
わ、私と話をするのかな……。
急に緊張してきた。男の人と話すのが恥ずかしいから、気づかないふりをして逃げようかな。
「あ、あの。この前、僕が読んでいる“宇宙の終焉”の本のことを話したけど、君はどんな本を読んでいる?」
“ぶつかった人”は少し小さな声で言った。
「えっ? え、えと、えっと……」
私は今日、HSPの本を持ってきていなかったのを思い出して、何を言えば良いのか頭の中で言うことを考えていた。
私が少しあたふたとしていると“ぶつかった人”はテーブルの上にある教科書を見て言った。
「もしかして勉強していた?」
「う、うん」
私は目の前に置いていた心理学の教科書を開いて言った。
「偉いなぁ、僕も勉強しないといけない。テストって再来週ぐらいからかな」
“ぶつかった人”は壁に掛かったカレンダーを見ながら言った。
「うん」
私は何か良い返事をしたいと思いながら、良い言葉が全然出てこなかった。男の人と話すのは緊張してきた。心臓がドキドキして、鼓動が大きくて、息が吸えない。
「……それじゃ。突然、話しかけてごめんね」
“ぶっかった人”はそう言って自分のテーブルへ戻っていった。
まさか話をするとは思っても無かった……。
もし私が相手の気に障る事を言ってしまい、傷つけることがないように気を付けて話すようにしていた。
“ぶつかった人”はたまたま人と話したかっただけかな。それとも私の事が気になってたりするのかな。
私は人にどう思われているのか、って考えている事が多い。自分が邪魔になっていないか、迷惑になっていないかを考えている。人を傷つけないために。
私は高校生の時から西井君の事が好きだけど……、西井君はもう彼女がいるかもしれなくて、想像すると辛い。
今は“ぶつかった人”の事が少し気になってるのかもしれない。
……単純接触効果?
私は心理学の講義で習った心理効果が頭の中に浮かんだ。
※単純接触効果……はじめのうちは興味がなかったものも何度も見たり、聞いたりすると、次第に良い感情が起こるようになってくる、という効果。




