第六十九話
展望塔から近くにある階段で地下に降りると“海中庭園”の入口があった。入場券を買って入ると、高い天井の空間が広がっていて、海の中を眺める事ができるアクリル製の大きな窓が幾つも並んでいた。
窓から海中を眺めると、水草の付いた岩がゴロゴロと魚がまばらに泳いでいるのが見えた。運が良ければウミガメが泳いでいるのが見れるみたい。実際の海の中なので、水族館と比べると魚が少なく感じた。
水面からの太陽の斜光が海の中では線になって輝いていてとても綺麗だった。普段は目にしない海の中の光景に私は心が洗われるような気持ちになった。
私たちは海中庭園を見まわった後、地上に出て喫茶店のバルコニーで休憩していた。
「海中庭園、良かったね。庭園というか大きな水槽が並んでるみたいな感じだったけど綺麗だったね」
アカリさんはアイスラテを飲みながらそう言った。
「やっぱりパワースポットが良いね。来月とか次は山の方に行くのはどう? 確かカスミって山に住んでなかったっけ?」
ヒカリさんはカフェオレを飲みながらそう言った。
「山には住んでないけど、広尾山は電車で行けば近いよ」
私はアイスティーを飲みながら言った。
「良いねー! 次は山で決定? 頂上までハイキングとかしようよ」
アカリさんは楽しそうに言った。
「そうそう、そういえばカスミ。ヒロインの話はオッケーだよね?」
ヒカリさんは突然、キラーパスのように言った。
突然の話題変更で驚いた。私は以前から考えていた断る理由を思い出した。
「あ、えーっと……。よく考えてみたんだけど……、私は喋るの下手だし、台詞とか覚えるの苦手だから向いていないと思うから……」
「いいの、いいの。カスミはカワイイから大丈夫! 引き受けてくれるでしょ? すっかりそのつもりでいた」
ヒカリさんは笑顔でそう言った。
「失敗して迷惑を掛けちゃうから……」
私は申し訳なさそうに言ったが、ヒカリさんは天然なのかと思うぐらい人の話を聞かない。私はヒカリさんの頼みを断るのはやっぱり心苦しくなってきた。もし私が断ったら、ヒカリさんの笑顔が曇るだろう、それが怖い。
ユメさんがコーラを飲み干して話を始めた。
「映画研究サークルで各学年ごとがチームとなって映画を撮る事になったんだ。普段は演劇部に役者を頼むんだけど、今年は入部者が無し。他のサークルも忙しいし、誰もいなくて困ってて。主人公は私がするから、カスミにヒロインをやってもらいたい。私からもお願いしたい」
ユメさんにはカラオケボックスでガイコツ男から助けてもらったり、先ほどはナンパ男から守ってもらったり、沢山の“恩”がある。受けた恩を返さないといけない。
「うん、分かった」
「ありがとう。嬉しいよ」
ユメさんは嬉しそうな笑顔を見せた。
私はユメさんが喜んでくれたので嬉しかった。恩返しとして私が頑張って犠牲になるよ。




