第六十話
ホール担当で接客をしていて、バイト時間の四時間がとても長く感じた。
後は掃除をして終了。キッチンとは掃除方法は違うけど、どちらも同じくらい大変だった。
「お疲れさまでした」
アカリさんと私は店長に会釈しながら七町珈琲の裏口から出た。
急に重い疲れが身体にのしかかった。でも、接客をしていると気分が高揚する気がした。普段より声を出しているからかな。
駅までアカリさんと話をしながら帰るいつもの流れだ。
「今日はキッチンで久しぶりだったから失敗しちゃって、上手くできなかったんだけど、ホールどうだった? 結構楽しいでしょ?」
アカリさんは疲れた様子もなく元気そうに見えた。
「ホールはどっちかというと苦手かなぁ。やっぱり知らない人に話すのが恥ずかしいからキッチンが良い」
「あっ、そうなんだ。私は断然、ホール担当が好き。喋るのが好きだからさ。高校の時、放送部だったのよ。“今日の給食のメニューはミネストローネ”、とか放送で言ってたよ」
「放送部って、すごいじゃん!」
「すごくないよ。クラスで誰もしないから推薦されたので、しょうがなくしたけど、超楽しくって。カスミは高校の時は何部だったの?」
「え……、えっと。帰宅部かな」
「カスミは勉強ばっかりしてたんじゃないの? 真面目そうだから」
「勉強ばっかりはないけど、部活はあんまり興味が無かったから」
運動系の部活は苦手だし、一緒に入る友達もいなかったし、私が入って皆に嫌がられそうな気がしたので入らなかった、なんてアカリさんに言えなかった。
「そうなんだ。そういえば吉坂さんがカスミは調理が上手って言ってたよ。何でそんなに調理が上手いの? 家で料理したりする?」
「家ではしてないけど……」
何で吉坂さんはそう言ってくれたのだろう。単に褒めるだけの為に言ったのだろうか……。
「それだったら才能があるって事じゃない? 焼き加減とか味付けの加減が想像できるとか。私はそれができなくて失敗しちゃうんだよね」
「この前、失敗してワッフル真っ黒焦げにしたけどね」
私は笑いながら言った。
「私はバイト初めてすぐにBLTバーガーのパテ真っ黒焦げだった」
アカリさんも笑いながらそう言った。
「ホールは次々とお客さんが来て、待たせたりしているとパニックになりそうになりそう」
「最初はね。忙しくてもパニックにならないように気を付けて。落ち着いた店の雰囲気を壊さないために」
駅の改札口が見えてきた。
私には珍しく、まだ話したい気持ちだけど、また今度話そうかな。
「そうそう。お給料入ったから、また服を見に行かない?」
アカリさんは向こうのホームへの階段を上る前に言った。
「うん、行きたい」
私はそれだけ言って手を振った。




