第五十九話
お客さんが店に入って来て、吉坂さんが対応しているのをじっと見ていた。説明して頂いた接客の流れを頭の中でシミュレーションしている。
もし次のお客さんが店に入ってきたら、私が接客する番だ。
心臓の鼓動が高まるのが自分で分かった。小学生の頃の予防注射の順番を待っている感じに似ていた。
店内には窓側のカウンター席が八ヶ所、二人掛けテーブルが四ヶ所、四人掛けテーブル席が四ヶ所ある。席番号は十六番まで割り振ってある。埋まっている席はモニターで確認できる。
次のお客さんが来た。
私が行かないと……。
ほんの一瞬、弱気になったけど、私は頑張る!
極度の人見知りの私だって接客できるんだ。HSPの私だって接客はできるんだ。
心の中で強く念じた。
「い、いらっしゃいませぇ」
私がお客さんに言うと、続いて吉坂さん、新崎さん、アカリさんが合わせて言った。
私の声が変じゃなかったか、お客さんは変な人だと思っていないだろうか、など頭の中を次々と駆け抜ける。
「何名様でしょうか? ご案内致します」
覚えた台詞を頭の中で再生しながら口から出した。
「ご注文をお伺い致します。ご注文を繰り返します」
ハンディ端末に苦戦しながら、注文も何とかできた。
ちょっと声が小さかったかな。間違えずに注文できたはず。何度も何度も確認した。
新崎さんとアカリさんが注文の品を調理している。出来上がるまでの時間はだいたい予想できるから、テーブルを拭いたり、メニューを整えたりしている。
注文の品が出来上がったら、カウンターに並ぶので焦らずに配膳をする。
「お待たせ致しました。ご注文は以上でしょうか? ご、ごゆっくりどうぞ」
普段使わない言葉を喋るのは難しい。
お客さんが食べ終わり、立ち上がってレジに来るまでは、他の作業をすることができる。その間に次のお客さんが来れば対応する。吉坂さんと上手く連携して接客対応をしていく。
お客さんがお会計に席を立ったので私が対応をする。
「お会計は千五十円でございます。千百円お預かり致します。五十円のお返しになります。ありがとうございました」
お客さんを見送ってお辞儀をした。
「倉里さん。スマイル、スマイル!」
吉坂さんは人差し指で頬を上げる仕草をした。
「はい、スマイルです!」
私は忘れていた笑顔で返事した。




