第五十八話
今日の放課後は、カフェバイトの日だ。
私は気合を入れて、七町珈琲の店の裏口から入った。
「おはようございます」
事務室でパソコンを見ている店長に挨拶をして、更衣室へ向かった。
「カスミは今日からホールだね。接客は慣れたら楽しいから頑張って。私はキッチンだからカンペノート見ながら間違えないようにするわ」
アカリさんは活気が溢れる雰囲気で笑顔を見せた。
月が替わって、私は今日からホール担当だから緊張して心が震えて、何だか落ち着かない。だから、バイトをする前からホールでの仕事について頭の中で予習をしていて、ずっと気合が入っている。
制服に着替え終えて、店内に入ると吉坂さんが声を掛けてくれた。
「倉里さん、ホールの仕事を教えるわね。こっちも覚える事が多いけど、身に付いたら楽になるし」
吉坂さんも一緒にホール担当へ変更だから安心だ。
「まず、接客は声を出すこと。お客さんが店に入ってきたら“いらっしゃいませ、何名様でしょうか?”。お客さんの方向に向いて言うこと。料理を運んでいる時は向かなくても良いけどね。お客さんを席に案内して、“ご注文が決まりましたら呼び出しボタンを押して下さいませ”。それで呼び出しボタンのピンポンが鳴ったらランプが点滅するから注文を聞きに行く」
吉坂さんはカウンターの上にあるランプを指さした。
「はい、分かりました」
「注文を聞くときは“お伺い致します”。注文の入力はこれで」
吉坂さんはカウンター内側の棚に置いてあるハンディ端末を取り出した。
「これで選択してボタンを押して、送信するとキッチンのモニターに表示される。必ず注文を繰り返して読み上げて確認すること」
「はい、分かりました」
「注文の料理が全部揃った時点で席まで運んで、“お待たせ致しました”。“ご注文は以上でしょうか?”で問題がなければ伝票を忘れずに置いて、できたら“ごゆっくりどうぞ”とか一言残して戻ってくる」
「はい、分かりました」
「お客さんが席を立ったらお会計だから、レジに戻って伝票を受け取って、“お会計は何円でございます”。お客さんが店を出る時は“ありがとうございました”。念のため、お客さんの忘れ物が無いかどうか席を確認すること」
「はい、分かりました」
「台詞を覚えたら、自然と声が出て動けるようになるので」
吉坂さんは笑顔でそう言った。
普通の人はそうなれるだろうけど、HSPの私はそうなれるだろうか……。




