第五十七話
「カスミ! ヒロインになってくれない?」
ヒカリさんは何故か勢いよく言った。
「ひ、ひろい?」
私は再び目を丸くして驚いた。ヒカリさんはたまに言葉足らずで良く分からない時がある。
「映画を撮ることになったんだけど、主人公はユメが男役を担当するから、カスミにヒロイン役をお願いしたいの」
「えーーーー! 無理、無理!」
私は小刻みに顔を左右に振って拒否をした。
「ヒロインだよ、良いじゃん! 他に良い人がいなくって。だから、お願い!」
「ヒカリさんは? アカリさんは?」
「私は監督。アカリはチビでしょ? ユメの身長と釣り合わないし」
「ん~、ちょっと考えさせて下さい……」
「良いよ。良い返事を待ってるからね」
「うん……」
突然、そんなこと言われても、すぐに“良いよ”とは答えられない。何て言って断ろう。
私は色々な事を考えすぎて頭の中が真っ白になっていた。
「そういえば、さっき何かをじっと見ていたよね?」
ヒカリさんは何か気になったのか、直感で聞いてきた。
「えっ? な、何も見てないけど……」
ヒカリさんと目線を合わせずに言った。
「あの男の人? さっき見ていたの」
ヒカリさんは私が見ていた目線の先を指さした。
「違う、違うっ。と、時計を見てた」
私は咄嗟に噓をついた。
「またまたー。声を掛けてこようか?」
ヒカリさんは冗談に聞こえないような感じで言った。
「駄目、駄目。知らない人だから」
「知らない人だったら、仕方がないかぁ。ね?」
「うん、うん」
ヒカリさんの直感が鋭いのか、心を見透かされているような気がした。




