第五十話
本の会計を待っている間、フレンチトーストの食材の事を考えていた。卵、牛乳、食パン、バターはだいたい家にあるよね。念のため、事前に確認しておこう。
バニラエッセンス、メープルシロップ、バニラアイスはたぶん冷蔵庫に無いだろうから買わないといけない。
会計を終えて、フレンチトーストの作り方について思い出していた。家のフライパンで上手く焼けるかな。バイトで使っているフライパンって、変わってて鉄のフライパンだから違うよね。
焼き加減を考えながら歩いていると書店の入口で、大きな壁にぶつかった。よく見ると壁ではなく背の高い男の人だった。
考え事をしながら歩いていた私の不注意だ。私はすぐに謝った。
「す、すみません。だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですか? すみません」
同時に相手もそう言った。よく見るとビックリした。大学の授業初日に“ぶつかった人”だった。
突然の事で声が出なかった。何か喋らないと……、“ぶつかった人”の名前はまだ知らないから、何て言えば良いのか……。
お互い何も喋らない状態が続いて、恥ずかしさで私は会釈をして駅の方へ歩いた。
また同じ人とぶつかるって、そんな偶然ある? 実際ぶつかった訳だけど。
何か言えば良かったかな。“二回目ですね”とか。私からぶつかっておいて、流石にそれはないね。頭の中で何を話せば良かったのかを考えている。もう話すチャンスは無いのに。
心臓がまだドキドキしている。
“偶然が何回も続くと運命……”って先日、アカリさんが言ってたけど、そんなのじゃないよね。もしそうだったら、もっと運命を感じると思うし。“ぶつかった人”については別に何とも思っていないし。
考え事をしながら歩く時も気を付けないといけない。駅の改札口を通って、プラットホームで電車を待ちながらそう思った。
先ほどの人にぶつかる出来事で一気に疲れた。




