第二十九話
「キッチンは覚える事が多いから、一つ一つ覚えていきましょう」
吉坂先輩は丁寧な口調で言った。
「はい! 頑張ります!」
「お皿が返却されたら、お皿洗いをしておいてね。お客さんが少ない時に下準備をしておくから」
「はい! 分かりました!」
私がシンクでお皿洗いしようとすると、店長がホールからキッチンに戻ってきた。
「倉里さん、ピクルスの瓶詰めといて」
棚からピクルスと瓶がキッチンテーブルの上に並べられた。
「隙間なく詰めていくのがコツだからな」
私は手を入念に洗ってから、瓶にピクルスを一つずつ入れていった。ピクルスは各々の大きさや微妙な歪みがあり、隙間ができてしまう。
何とか上手く詰められるように選んで入れた。パズルをしているみたいだった。
「おっ上手い、上手い。あれっ? 倉里さんは左利き?」
店長は私がピクルスを瓶に入れるのを見て、そう聞いた。
「はい、左利きです」
「それじゃ包丁も左手で握るのか……、切り方が逆になるな」
何か考え事をしながら店長はホールの方へ行ってしまった。
「いらっしゃいませー」
お客さんが来て、アカリさんの通る声が店内に響いた。
「いらっしゃいませー」
続いて吉坂先輩も良い声で続けて言った。
キッチンでもいらっしゃいませと言うみたいなので、次から私も言うようにする。
「オーダーが入るから、それを作りましょう」
「はい!」
しばらくして、オーダーが目の前の液晶画面に表示された。
“ホットコーヒー、ケーキセット(モンブラン)”
「ケーキはカウンターケースから持っていくから。珈琲の淹れ方を教えるから」
「はい!」
「まず、サーバーの上にドリッパーを置いて、ドリッパーにネルをセットする。ネルにコーヒー粉をスプーンで三杯入れる。ドリップポットにお湯を入れて、ドリッパーにゆっくり注ぐ。ほら、コーヒー粉が膨らんできて、ぽたぽたと下のサーバーにコーヒーが溜まっていくから」
私は初めて見る珈琲の淹れ方を集中して覚えるようにした。
「すごいです」
吉坂先輩はサーバーに溜まった珈琲をコーヒーカップに注いで、カウンターのトレーの上に乗せた。
アカリさんはトレーをお客さんのテーブルへ運んでいった。
「こういう風に注文があったドリンクやフードを調理して、カウンターでホール担当へ渡す。流れはこんな感じだから。ドリンク類の作り方はカンペノートに書いてあるから。分からない時は見ながら作れば良いから」
「はい! 分かりました!」
「まあ、まずメニューを全て覚える事ね。大丈夫、すぐに覚えれるわ」
吉坂先輩は微笑んでそう言った。
「いらっしゃいませー」
二人組のお客さんが来て、アカリさんの通る声が店内に響いた。
「いらっしゃいませー」
「い、いらっしゃいませ~」
私は吉坂先輩に続いて声を出した。




