第百三十五話
「いいよ、僕の方で戻しておくから」
長良さんはそう言うとブックカートを押してエレベータに向かっていった。
「えっ?」
私は自分の耳を疑った。
いつもこういう面倒な事があった場合、今まで男子は私に押し付けて逃げる人ばかりだったから、自分から進んでする人がいるなんて思ってもいなかった。同時にそんな優しい人がいるとは思わなかった。だって、男子はいつも自己中心的で自分勝手で無神経で、人のために行動するなんて事はなかった。
長良さんにだけ本を戻すのをさせたら申し訳ないと思った。やっぱり自分も手伝おうと思って、エレベータに向かった。
「私も手伝う」
私はブックカートから数冊の本を手に取った。
人に嫌われるのが嫌なので、人に対して良い顔をしてしまう。それに人に喜んでもらえるような行動をしてしまう。何かと気を遣ってしまう私はやっぱりHSPなんだなと思った。
「良いの? ありがとう」
長良さんは笑顔を見せて言った。
本の背表紙にローマ字と管理番号が貼り付けてあるので、そのローマ字が示された棚で番号順に並んでいる所に本を戻していく。
三十冊ぐらいあったブックカートの本を全部戻すのに二人で三十分ぐらい掛かった。
「はい、終了!」
長良さんはそう言って両手を上げて頷いた。
「終了!」
私もその声に続いて同じように言った。
本を戻す作業は、たぶん普通の人は面倒だと思うだろうけど、私は何故か楽しかった。




