第百三十四話
授業が終わって、放課後に大学付属図書館へ向かった。
私はいつも使うテーブル席で、鞄から本を取り出して椅子に座った。周りを見たが誰もいなかった。“ぶつかった人”の長良さんもいない。
そう思った次の瞬間、“ぶつかった人”の長良さんが図書館へ入ってきたのが見えて少し息を呑んだ。
この前、映画撮影の事を聞かせてって言ってたから何か話さないといけないかな。話す内容が何もまとまっていなかった。話さないといけないかもしれないから心構えをしておこうかな。
“ぶつかった人”の長良さんが少し離れたテーブル席に座るのを眺めていたら、一瞬目が合ってしまった。
しばらく立ち上がる様子が無かったので、私は集中して本を読み始めた。
「ちょっと勉強だけして、今日は早めに帰ろうかな」
本を読みながら、残りページの厚みから読み切る時間を推測した。
HSPが生きづらい世の中で人間関係についてのアドバイスの項目を読んでいた。“人格を尊重しない人は避けて、共感ができる人と一緒にいること”と書いてあった。
いつも一緒に行動をしているヒカリさん、ユメさん、アカリさんは私の人格を尊重してもらっていると思うし、共感もできていると思うから安心した。
“ぶつかった人”の長良さんが立ち上がったかと思うと、こちらに向かってきた。
「こんにちは。ちょっとお話しする時間ある?」
丁寧な口調で長良さんは言った。
「はい、大丈夫です」
一瞬、空気が止まったような感じがした。少し緊張していた私は本に栞を挟んで置いた。何を話すのだろう、やっぱり映画のことかな、と頭の中で考えた。
「映画は一年生に票を入れたよ。一番良かったから、最優秀賞になると良いね」
長良さんは笑顔で言った。
「ありがとうございます」
私は会釈をしながら言った。やっぱり映画の話だったから何を聞かれるのか頭の中で想像した。逆に何を話したらよいか分からず、沈黙になりそうで何か喋らないとと考えていた。
突然、図書館の受付の方から知らない男の人の声が聞こえた。
「君ら! ちょっとスマンけど、手伝ってくれないか?」
私と長良さんは声のする方向を見ていると、受付の白髪のおじいさんがブックカートを押しながらこちらに歩いてきた。
「このカートの本を全部、元の場所に戻して欲しいんだよ。いやねぇ、いつも担当している人が風邪で休みなんで。君らは最近よく見かけるし、周りには君らぐらいしかいなくてね。お願いして良いかい?」
白髪のおじいさんは頭を掻きながらそう言った。
「はい、良いですよ」
長良さんは快く返事をした。
「ありがとう。殆どが二階の本だったはずだ。それじゃ、お願いするから」
おじいさんは片手を上げて去っていった。




