第百二十七話
「衣ヶ原なの? 駅も私と一緒じゃん! それじゃ、明日から一緒に行こうよ。駅前で待ち合わせて」
北上さんは下履きに履き替えながら言った。
「……うん」
もし断ったのがきっかけで、この人がイジメっ子と変わってしまったら、と思うと怖くて断れなかった。
学校から駅まで15分ぐらい掛かるけど、その間ずっと北上さんが喋っているのを聞いていた。何か話したほうが良いのだろうけど、“人との干渉は災いの元”というディスコミュニケーションで過ごしてきた私は何を話せば良いのか分からなかった。作り笑顔で相槌を打つことしかできなかった。
「そうそう、高星スターランドってあるじゃん。先月リニューアルオープンして、超楽しくなってるみたいなの」
北上さんは少し興奮気味で、目を大きくして私を見つめながら言った。
「そうなんだ」
私は小学二年生の時に両親に連れて行ってもらったが、あまり覚えていなかった。老朽化で閉園したのは聞いたことがあった。
「それでさ、半年パスを買って何回も行こうかなって計画してて……、倉里さんも一緒に行かない?」
北上さんは笑顔で聞いてきた。
「えっ?」
私は驚いた。今日、クラスで初めて話したばかりの初対面の相手を誘うことが信じられなかった。相手の性格とか分かってから誘うものだと思っていた。もしかして“陽キャ”ってこういう人のことを言うのかもしれない。
断った方が良いけど、断ったら怒るかな。怒ったら仲間外れにされるかな。もし一緒に行ったらグループの中に入れて、イジメられずに済むかな。
一瞬で頭の中を色々な考えが駆け抜けていった。
「通常は半年パスが八千円なんだけど、今なら六千五百円で買えるのよ。これは買うでしょ?」
北上さんはテレビの通販番組のように言った。
「……うん」
私は断れずにそう言ってしまった。お母さんに聞かずに決めてしまって良いのかな。明日、やっぱりダメだったと断ろうかな。
「ホント? それじゃ次の土曜日に行こうよ。もう中学生だし、親に許可をもらってさ」
喜んだ顔で北上さんは楽しそうに話した。
「えっ? 子供だけで行くの?」
私はてっきり親同伴で行くのだと思ってたから驚いた。子供だけで行くのって心配だし、心配掛けそうだと思った。分からない事があったり、困った事になったりした場合、どうするのかな……。そういう状況を事前に考えたりしないのかな。
物事をじっくりと考えて進める私にとって、どんどんと話が進んでいくことに恐怖を覚えた。
北上さんと話をしていると、いつの間にか、電車に乗って、衣ヶ原駅まで着いていた。
「そうだよ、その方が楽しいじゃん! それじゃ、バイバイ!」
北上さんは手を振りながら、ロータリーに停車しているバスへ走っていった。




