第百二十四話
私は左手の骨のひびの話や学校での出来事などを少しずつ話した。目に見えない声の相手は真面目に聞いてくれた。私の事を理解してくれた。私の心を助けてくれた。
声の相手を私は“幽霊さん”と呼ぶことにした。
この出来事があって以来、部屋の中では幽霊さんと話すことが多くなった。いつでも会話をしている訳ではないけど、相談したい時は話し掛けると答えてくれる。
相談内容は主にイジメの対策方法が多かった。その中で一番、ためになったのは来年、中学へ進学した時にイジメられないようにするにはどうするか、ということだった。
地元の衣ヶ原中学校は今の小学校から殆ど進学するので、イジメられる可能性が高い。衣ヶ原駅から電車で2駅離れた丘広駅に “丘広アモール中学校”という偏差値の高い進学校がある。その中学校へ進学する人って少ないと思う。そうであればイジメられる可能性は低い。
幽霊さんと相談しながら、それは良い案だと納得した。
それから私は丘広アモール中学校を目指して頑張って勉強し始めた。
幸い私が突き落とされた事件があって以来、イジメが減ったような気がした。みんなは口裏を合わせて“倉里は階段で勝手に転んで落ちた”と先生には言っていたが、私が学校を休んだ時に母親が先生に伝えてくれたからだった。恐れていた報復も無かった。
左手のギプスは予定通り一ヶ月で外せるようになった。
整形外科医院で回転のこぎりを出してきた時は怖かった。腕まで切断されそうで血の気が引いた。最後は大きな鋏を使ってギプスと包帯を切って外した。
左の手のひらが縮んでいるのに驚いた。右の手のひらよりも一回り小さかった。小さくなったというよりも瘦せこけた感じになっていた。握りこぶしを作るのは久しぶりの感覚だった。
これからは利き手の左手で鉛筆を握って勉強ができる。そう思うと、私の心の中で闘志のような炎が燃え上がった。




