第百十九話
ある日の朝の会が始まる前、私は自分の席で周りの様子を見ていた。
突然、後ろの方から男子生徒の大きな声が聞こえた。
「うわーー、気持ちわりぃ」
その声で畑島さんの持っている虫かごに注目が集まった。
クラスメイトの女子からも悲鳴のような声が教室中に響いた。
「うるせえな。何、言いよるんや!」
畑島さんは周りからの嫌がる声に対して怒りを表した。
何が起こったのかと気になって畑島さんの方を見た。畑島さんの机の上に置いてある虫かごの中に黒色に白い斑点の塊のようなものが入っていた。塊をよく見てみると、十匹以上の“ゴマダラカミキリ”が集まっていた。
それを見た瞬間、私も背筋が冷たくなった。
「こんなに集めたんは初めてや」
畑島さんはそう言うと周りのクラスメイトに自慢気に見せてまわった。皆が皆、気持ち悪がって、畑島さんの周りから離れた。
私もやっぱり大量の昆虫は苦手だったので、その様子を遠目で見ていた。
「朝の会を始めるから全員着席! 静かにしなさい!」
先生が教室に入ってきて大きな声で注意をすると、教室内の騒がしい雰囲気が一瞬で静かになった。
ゴマダラカミキリ騒ぎの出来事があってから、クラスメイトから畑島さんは“気持ちの悪い人”という印象が付いてしまい、男子からも女子からも嫌われるようになった。
それでも私は仲良くなった友達の畑島さんの味方でいた。
「うわー、畑島の机を触ってしまったから、バイ菌が手についた」
「昆虫臭いから、こっちに来るな」
「汚い手でプリントを触るな」
畑島さんはクラスでイジメの対象にされ、傷つける言葉が度々飛び交った。
私は人に対して言い返すのが苦手だったので、畑島さんを助けることができなかった。
イジメがあっても畑島さんは相手が男子でも言い返すぐらい気が強く、どんな悪口を言われても平気そうな顔をしていた。
いつも畑島さんと一緒に話したり、行動したりしている私も気が付けばイジメの対象となっていた。畑島さんと私はいつも二人っきりで、私たち以外のクラスメイトはみんな敵だった。
「倉里さんは悪くないのに、アイツといるからイジメられるんだよ」
私がイジメられ始めて間もない頃、クラスメイトの一人からそう言われた。
その時、私は“友達を選ぶに決まってるじゃん”と心の中で思って、畑島さんと友達でいることを続けた。




