第百十二話
ヒカリさんとユメさんは昼の部から映画研究会の上映裏方をするので第六棟に戻っていった。
廊下を歩きながらアカリさんは話し掛けてきた。
「私、高校の時は放送部だったから、文化祭で超忙しかったのを思い出すのよ。出し物としてラジオみたいなのするのよ。一時間ごとに交代して、ゲストに先生を呼んだり、ハガキを読んだりね」
「すごいね。ラジオなんて私、喋れない」
私はそんな事ができるアカリさんがすごいなと素直な気持ちがそのまま口から出た。
人と話す時、話す内容を考えるのに時間が掛かるし、受け答えも上手く繋げられないからトークばかりのラジオなんて私は無理だと思う。
「ラジオ局のFM飛宮が収録に来たことがあったよ。それで、私も出演した」
「すごーい! ラジオなんて普通は出られないと思う」
「放送部やってて最高に良かった瞬間だったよ」
私はアカリさんが有名人になったような感じがして嬉しかった。
アカリさんと廊下を歩いていると、すれ違う人にじっと見られた後に指をさされてこう言われた。
「あっ、さっきの映画の人だ。真理」
私は咄嗟の出来事で、何も言えずに顔が赤くなった。
それが不思議なことにすれ違う何人かの人に顔を指差された。映画を観た人なんだろうけど。
私は“はい”って手を振るぐらいしかできず、恥ずかしいので早く大学から外に出たい気持ちだった。
「カスミ、有名人じゃん! 良いなぁ、呼んでもらえて。ナレーション担当は気付いてももらえないし」
アカリさんは羨ましそうでもなさそうに言った。
建物の外に出て、並木道を歩いていると見覚えのある顔が近づいてきた。
“ぶつかった人”の長良さんだった。
「大学の自主映画に出ていたよね? 凄く良かったよ! また今度聞かせてよ、映画撮影の話」
長良さんはいつもとは違ってテンションが高かった。
「う、うん」
私は突然話し掛けられたので驚いて目が丸くなった。
「それじゃ」
長良さんはアカリさんがいるのに気を遣って、すぐに去っていった。
「えー、今の誰なの? 誰、誰」
アカリさんは私と長良さんを交互に見ながら言った。
「私もあんまり知らない……、同じ学部の人みたいだけど」
私は嘘をつくつもりは無かったが、ほとんど間違っていない事を言った。
「またまたまたまたー。そんな雰囲気じゃなかったよ」
アカリさんは私の肩を叩いて言った。
「でも、喋ったのって数回しかないし」
私は思い出して素直に言った。
「隅に置けないなー、カスミ」
アカリさんは肘で私の腕を小突きながら言った。
長良さんは“今度聞かせてよ”って言ってたから、上手く喋れるように話す内容をまとめておかないといけないと思った。




