第百六話
今日は七町珈琲でバイトの日だ。
溜まっていた疲れが吹き飛ぶぐらいリフレッシュできたから気分も良く、いつもより身体も軽い。
お客さんも多くて今日は忙しい。
バイトの先輩である吉坂さんも一緒にキッチンを担当しているが、次から次へと注文が入ってくる状況なので忙しい。
午後七時から八時のピーク時間を過ぎて、ようやく落ち着いてきた。
遅いご飯休憩に吉坂さんが話をしてきた。
「そうそう、就職が決まったのよ」
「おめでとうございます。どこに決まったのですか?」
「青原屋製菓。商品企画や開発を希望したけど、販売になるのかもしれない」
「すごいですね、青原屋製菓って超有名なお菓子メーカーじゃないですか」
「お菓子関係に興味があってね。洋菓子のローレンリスリルとか、老舗の柏米製菓とかも応募してみたけどね。面接で落とされた感じ」
「どこも超有名な所ですね。すごいですね」
「まあ今回は青原屋製菓とご縁があった、ということ。就職はね、時の運だから。私が行きたくても会社は状況によって、人はいらないって場合もあるからね」
「会社の状況は分からないですよね?」
「そう。だから、時の運。不採用だった原因が必ずしも自分が悪い訳じゃないって事を覚えておくと良いわ」
「はい」
自分も就職する時には頑張らないといけない。まず、何になりたいかを決めないといけない。
「あれっ? ヒカリ!」
ホール担当のアカリさんの声がキッチンまで聞こえた。
「撮影が終わったから、ナレーションをお願い。アフレコ、明日とかできる?」
ヒカリさんは台本を渡しながら言った。
「明日? 明日だったら良いけど、どこで録音するの? やっと私の出番がまわってきた」
アカリさんは台本をパラパラと見ながら言った。
「私の家で宅録の予定。本当は防音部屋を借りたかったんだけどね。まあ予算は無いし」
ヒカリさんは“分かって欲しい”というような笑顔を見せて言った。
「それじゃ、ヒカリの家に行くね。時間は? 何時ごろに行けば良い?」
アカリさんは頷きながら腕時計を指差した。
「午後一時頃で。午前中はたぶん寝てるから。アハハ」
ヒカリさんは自分で言ったことに笑っていた。
私はキッチンから二人の会話を見守るように聞いていた。
撮影した映像にどんなナレーションが付くのだろうと想像したが、どんな風になるのか想像がつかなかった。




