第百三話
今日は映画撮影の日。撮影は今回で最後だと聞いた。やっと終わりだからホッとしている。でも、気を抜かないように頑張ろうと思った。
日月の島駅内にある時計台で待ち合わせをしていた。一度、来たことがある場所だ。
まだ午前中なのに電車から降りてくる人が多かった。たぶん海水浴に来る人なんだろうと思った。
駅の外へ流れていく大勢の人を眺めていた。
「おはよー、カスミ」
ヒカリさんは人混みの中でも分かりやすいように軽く手を振った。
「お、おはよう」
朝は活舌が悪くて、会話が下手だ。
「ユメはトイレ行ってくるって。今日は朝から人が多いね。邪魔されずにちゃんと撮影できるかなぁ」
ヒカリさんは周りをキョロキョロと見渡して呟いた。
「お待たせ」
ユメさんは待ち合わせに遅れた男性のように言った。
三人が集まったので駅の外を出て、日月島へ向かった。
「あっ、雨の匂いがする」
私は独り言を小さく呟いた。
「雨? そんな匂いがするかなぁ。普通に海の潮風の匂いだけど」
ヒカリさんは私の小さな声を聞いて、匂いをかいだ。
「気のせいかもしれない」
私は自信が無かったのでそう言った。
日月島の巨大な展望塔の最上階まで歩いてきた。海水浴場には人が大勢いたが、展望台に来ている人は少ない。
「ここで海を眺めるカットで撮影を始めるから。さあ、トイレで衣装に着替えてきて」
ヒカリさんは撮影ができそうな場所があるかどうか見渡しながら、手に持った鞄を差し出した。
「うん」
私は待たせないように受け取った鞄を持ってトイレに向かった。
白いワンピースに着替えて戻ってくるとバルコニーでヒカリさんとユメさんが話していた。以前、ここに来た時にナンパ男に話し掛けられて嫌な思いをしたのを思い出した。
「ここから海を眺めるのが絵になるよね。あれっ! 雨が降ってきたよ。カスミの言った通りだ」
ヒカリさんは空を眺めて言った。
私たちは取り合えず屋根のある所まで移動して、天候の様子を見ていた。
「すぐに止むと良いけどなぁ。でも、最後は雨で終わるのもアリかも。小雨になってきたら撮影しよう」
ヒカリさんは腕を組んで何度も頷いて言った。
「雨が止むまでちょっと休憩してくるわ」
ユメさんは背伸びをして近くのベンチまで歩いていった。
「今日でストーリー終了だから、多少濡れても良いよね。ラストでキスするから」
ヒカリさんは私の方を向いて笑顔を見せた。




