第百一話
今日は七町珈琲でバイトがある日。映画撮影で少し疲れが溜まっていて、家でじっと休んでいたいけど、バイトは休めないので仕方がない。私、頑張る。
「今日は暇になるだろうから、吉坂は休みだから。手が足りなかったら呼んで」
店長はパソコンをカチカチと鳴らしながら言った。
吉坂さんが休みということはキッチンは私のみ、という事だ。
「はい、頑張ります」
いつも通り食材の確認と下準備を終えた。
普段なら下準備を終える前にはお客さんが一人は入ってくる忙しい時間帯なはず。
「今日は暇だね。午前中はお客さんが入っていたみたいだけど、昼からずっと少なかったみたい」
ホール担当のアカリさんはカウンターに肘を置いて話し掛けてきた。
「そうだね。こんなにお客さんが来ないのは珍しいね」
私は何故なのか考えたけど分からなかったので頭を傾げた。
「確か“新笹風”でイベントやっているみたいだね。何のイベントかは知らないけど。ライブとか開催しているのかな」
「新笹風ってあんまり聞かない所だね」
「笹風東の東方面にあるみたいよ。地名に“新”って付いても、どの辺か分からないよね」
「そうだね」
私はシェアハウスの話題をアカリさんに話そうと思った。
「昨日、映画撮影をした後にシェアハウスを見に行くことになって」
「へぇー、シェアハウスどうだった? でも前に止めておこうって話じゃなかった? 私も見に行きたかったなぁ。どの辺にあるの? 大学から近い?」
アカリさんの口からは次から次へと言葉が出てくる。
「え、えーっと。鳳空駅から近くて、一軒家で広かった」
頭の中の伝えたい情報が多くて、まとめきれずに説明が上手くできなかった。
「まあ、一軒家が多いだろうね。共同アパートみたいな古いのもあるみたいだし。部屋の広さは? 家賃は高い?」
アカリさんからは質問が続いて出てくる。
「四畳半のお部屋が四部屋あって、家賃は聞いていなかった」
「結構、高そうな気がする。だって、あの辺は高級住宅街だと思うし」
「えぇー、高級住宅地なんだぁ」
私は昨日、アカリさんも一緒に内見できれば良かったなぁと思った。
「お客さんが来ないから、外で窓を拭いてくるわ」
アカリさんは窓拭き用のクリーンワイパーを片手に店外に歩いて行った。
「私も掃除をしておこうかな」
ガスコンロ周りを重曹水で拭きつけて磨き始めた。




