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シロクロ遊戯~死神さまのお気に入り~  作者: みなと


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ご飯を食べよう:後

「ごちそうさま、でした」

「お腹いっぱい……」


 ふにゃふにゃと嬉しそうに笑う双子は、お互いを見てまたへら、と笑う。

 こんなにお腹いっぱい食べたのは、いつぶりだろう。少なくなっていく食料を憂いながら、あと何日すればご飯が増える。そう思い、残りに配慮しながら過ごす日々。


「お口に合いましたか?」

「美味しかった、ありがとうエカード」


 頷いてブランシュは微笑む。死神、と名乗っている彼らが、どうやって作ったのだろうか……と疑問に思っていると、ウルツがいそいそとノワールのところへと移動した。


「姫様……」

「ありがとう、すごく美味しかった」

「~~!!」


 やっぱり大型犬だ……とノワールはウルツの頭を撫でたくなることを我慢しつつお礼を言う。恐らく、頭を撫でるとキラキラと目を輝かせながらお礼を言ってくれるのだろうか、いや、もしかしたらまた抱きつかれるかもしれない。とはいえ、ウルツとは長い付き合いになるかもしれないし……など、色々と考えていたところで、ノワールもブランシュもふと気付いてしまった。


「あの……今はお腹いっぱいになれたけど、これ……このまま続けたら……」

「そう、だよね……」


 お腹がすいていると、ロクな考えにならないだろう。

 とはいえ、この二人は今いきなり味の濃ゆいものを食べてしまうと胃が驚いてしまって、最悪の場合お腹を壊すだけではなく、体に負担をかけてしまうかもしれない。

 その辺りも考慮した上で、優しい味付けのパン粥を出しておいた。あとは新鮮なフルーツ。これは、痛まないうちに食べておいた方が良いだろう、という判断のもと出しておいた。


 そして、二人が話していた『パンが一個ずつ』というものも見つけておいたので、まずはそれから消費した。


 かさかさに乾いていたので、荷物の中に入っていた牛乳を使い、しっかりと水分を含ませてからあれこれ調理をしたのはウルツ。明らかに足りなかったのでかさ増しはしっかりしておいた。

 あまり濃すぎない味付けにしておいて良かった、と思いつつ、まさかこんなにも悲壮な顔をさせてしまうとは……と思ったが、エカードが運ばれてきた荷物の中にあった果物の皮を剥いてから皿に盛り付けてから、はいどうぞ、と差し出した。


「ご心配なさらずともよろしいですよ、姫様。きっと、今後はもっと()()()()食料が差し入れされるはずですから」

「で、でも!」

「そうだよ! 今までどれだけ訴えかけても……」


 苦しそうな表情でノワールが言うも、途中で言葉に詰まり、ぐっと手を握る。


「……どんなふうにお願いしても、何も……してもらえ、なくて」

「ノワール……」


 この双子は、本邸を追い出されてからずっと、お互いだけが支えだった。

 寂しくても片割れがいるなら、何も問題なんかないと思っていた。だが、まさか兵糧攻めをされるとは思ってもみなかった。


 殺すなら、どうしてあのスキル判定の日じゃなかったんだろうか。


 ブランシュとノワールの、疑問。

 せめてあの時に二人揃って殺してくれていれば、何も怯えることなんてなかったのだ。


「本当に大丈夫ですよ、姫さま方」

「……どうして、そう言い切れるの?」

「きっと、あちらからも来てくれますから」

「?」


 この二人は、一体何をしたんだろうか。

 でも、確か普段はメイドが食料を持ってきて、二人目掛けて投げつけるように渡してくるのに、そのメイドが来ていない。

 二人には『ここ(別邸の敷地)から出るな』という言葉が、まるで呪いのように染み付いているから、出ようとすることはしない。なので、何がどうなっているか、だなんて確認もできない。


「お父さまや……お母さまが、来るの?」

「もしかしたら、という程度ですが。可能性はゼロではございません」


 にこにこと言い切るエカードに、ブランシュは安心したようだった。ブランシュが安心すると、ノワールも自然と安心して、表情から強張りが消えている。


「マスターも安心した?」

「……うん」


 頷いてくれているノワールを見れば、ウルツもへにゃ、と嬉しそうに笑う。

 自然と四人で笑い合っていると、ブランシュがすっと皿に盛られた果物に手を伸ばして、ぱく、と食べた。


「おい、しい?」

「ブランシュ、何で不思議そうなの?」

「美味しいのか分からない……」

「あー……」


 そういえば、果物なんてほとんど口に入らない。保存しづらいからなのだろうか、と双子は勝手に思い込んでいたのだが、これら全てが彼女たちの実家に仕えているメイドたちの手によるものだなんて、知らなかったのだ。

 メイド曰く、『化け物が人間様と同じもの食べようだなんて、図々しすぎる』だとか、『腐ったら勿体ないじゃーん』だとか、『まぁ、どうせ処刑される運命なんだし仕方ないよね』だとかいう理由。

 こっそりとルイージャだけは双子のために、とクッキーやチョコをこっそりと忍ばせていたが、メイドに全て奪われた結果、彼女たちのおやつになってしまった、という悲しき事実を、まだルイージャは知らない。


「もし……最後に会えるなら、お姉さまが良いね」

「うん。お姉さまは私たちのことを心配してくれた」


「(けれど、心配しているとは言いながらも、ここに近付いてくるという度胸はない、と)」

「(こら、ウルツ)」


 死神たちは、こっそり悪態を吐くが、決して双子には聞こえないようにしているあたり、配慮はしているのだろう。

 だが、事実だ。

 双子のことを大切にしていると言いながらも、ルイージャは決してここには近付いていない。大事なら、直接会いに来てやれば良いものを、と思う二人の死神は、すっと双子に対して手を伸ばした。


「さて、お二方」

「ん」


 美味しいとは思うけど、判断が難しいなぁ……と思いながら果物を二人で分け合って完食した双子は、お互いのパートナーになり得る彼らを見た。


「姫様、こちらへ」

「うん」

「マスターもこちらへ」

「はぁい」


 双子の話し方は、年齢不相応につたないところもある。二人の世界はここで完結しているから、仕方ないのかもしれないが、これはこれで可愛い、と贔屓目に見てしまうのは、主可愛さ、とでも言うべきなのだろうか。


「さぁ、『契約』を、我らと」

「決して、貴女方に寂しい思いはさせません。ずっと……命尽きるまで、ご一緒いたしましょう」


 エカード、ウルツが微笑んで、二人の手の甲にそっと唇を押し当てる。

 双子は、共に嫌がらない。


 ご飯をくれた人に懐いている、というよりは『きちんと二人と向き合って会話をしてくれた』ということが何より嬉しかった、それに、ブランシュもノワールも、この家の血を引いており、魔力の質や量、向いている属性などから諸々考慮した上で、あの時の『助けて』という声に応じてやってきたのが、エカードとウルツ。


「エカード、あなたの力を貸してほしい」

「ウルツ、あなたの力を私に。……私ね、きっと……色々、我慢をしていたの」


 ふわ、とブランシュとノワールの体を、魔力が覆っていく。

 見た目は変わらなくても、『神』たるものと契約したという証が刻まれることで、契約している間は彼女たちの『質』が異なるものになった。


「姫様の、望むままに。死神としての役目を、しかと果たしましょう」

「マスター、誰か殺したい人がいればいくらでも言ってね。何でもするから」

「なら……」

「まず、一つ目のお願いをしても良いかな?」


 ブランシュとノワールは、二人揃って笑い合ってから、言葉を紡いでいく。


「あのね、私たちのご飯を持ってきてくれていたメイドさんに『ご挨拶』をしたいんだ」

「今日、貴方たちが持ってきてくれていたご飯を見たら……全然違うんだもの。だからね」


 二人の笑顔の質が、歪んだ。

 笑顔だけれど、楽しいから笑っているのではない。あくまでご挨拶をした上で、、メイドたちがどんな考えを持っていたのかを、『きちんと』話して聞かなければいけない。

 だから、話を聞けるまで、徹底的に問い詰めないといけないのだ。


 だから。


「次にやってくるメイドさん、一人だったら捕まえてほしいな」

「殺しちゃ駄目だよ」

「おや」

「そんなことで良いの? マスター、別に殺したとて俺らが……」

「だーめ」


 にこ、とノワールが微笑んで、すっとウルツに手を伸ばして両頬をそっと包み込んだ。ふに、と柔らかな感触を確かめるように、しかしどこか妖艶な笑みで、ウルツに言い聞かせるようにして言葉を紡いでいく。


「わたしたちが、聞かなくちゃいけないの。その上で、うっかりやりすぎちゃったら、ちょっと力をかしてほしくて」

「……どうやって?」

「それは、その時になったらわたしとブランシュが言うね。ね、ウルツ、お願い」

「……喜んで、君の言うことを聞くよ、我がマスター!」


 恍惚とした笑みを浮かべて、迷うことなくウルツはノワールの手首をそっと掴み、そのまま掌に自分の唇を押し当てた。


「ふふ、くすぐったい」

「マスター、何でも言って。俺たちは、絶対的に君たちの味方なんだ」

「……うん」


 嬉しそうに、ノワールは微笑む。

 そのやりとりを聞いているブランシュも、微笑んでエカードの頭にそっと手を乗せた。


「エカードも、よろしくね」

「無論です、姫様」


 ブランシュとノワール、それぞれの手の甲に複雑な紋様が宿っていた。

 それこそが、『神』との契約の証。彼らが、絶対的にブランシュとノワールの味方である、ということの証でもあった。

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