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シェナの花の咲く頃  作者: 錫乃


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(1)

以前、二次創作小説として書いたものを、魔法ありきの異世界設定に落とし込んだらどうなるのかなと思って再構成したものです。

嫌な予感というのはよく当たるものだ、とスフィアーネは頭痛を覚えながら思った。


フェアノスティ王国サザランド北方辺境伯領。

その辺境騎士団に、『王都の騎士団から剣の指南役が来るらしい』という知らせがもたらされたのは、年が明けたばかりの厳寒の頃のことだった。


サザランド領主城館と辺境騎士団詰所がある領都ラシェナは王都から馬で十日ほどの地方都市だ。

『北都』という別名でも呼ばれるほど大きく栄えているため、人口も多く人材も比較的豊富。

また、竜壁山脈を超えた北側にあるマルタラ帝国とはここ数年ずっと緊張状態が続いており、歴戦の猛者揃いの北方辺境騎士団はフェアノスティ内でも屈指の強さを誇る。

そんな北方領に王都の騎士団から剣指南としてわざわざ人が派遣されてくる、というのはわりと珍しいことだった。


スフィアーネ・ミアノスは、その北方辺境騎士団詰所に六年前から事務職員として勤めている。

スフィアーネは北方生まれの北方育ち。

十六歳から一年半だけ王都エリサールの王立学院高等部で学んだ以外、北方地域を出たことはない。


「うちの団員は王都の学院で学んでいないものが多くてね、強さはあっても技術は我流なんだよ。

だから、ちゃんとした剣技を習得した者による指導も大いに意義があるというのが辺境伯閣下のご意向だ。

派遣されてくるのは第三師団所属の騎士らしい。若いけど、なかなかの使い手だという話だよ。

王立学院高等部卒業後、すぐに騎士団に入ったんだとか。

ああそういえば、確かミアノス嬢と同じ年頃だったんじゃなかったかな」


直属の上司からそう聞かされたときから、なんとなくだが嫌な予感はしていた。


とはいえ、スフィアーネはそれほど広く交友関係を持つタイプではなかったので、たとえ年頃が近かろうと、最悪学院の同窓生であったとしても、互いに面識があるなんてことは確率的には低いだろうと踏んでいた。

……のだが。





週初めの出勤日、王都から来たという剣指南役がスフィアーネのいる部署にも挨拶にやってきた。

扉を開けて目に飛び込んできたその薄紫の髪をした人物を見て、スフィアーネは思わず座っていた椅子から立ち上がった。音がした方を見た騎士の方も、驚愕したように若葉色の目を見張った。


「何で貴方がここにいるのっ!??」

「何で君がここにいるんだっ!??」


気づいたときには、互いに指を差してそう叫んでいた。

叫んでしまってからハッとなり、スフィアーネは慌てて椅子に腰を下ろした。

指南役の騎士の方も、気を取り直すようにこほんとわざとらしい咳払いを一つすると、大きな声で挨拶をした。


「本日付で剣指南役として王都から参りました、ジェレミー・ノーツです。

よろしくお願いします」


見事な切り替えの早さで、絵に描いたような爽やかな騎士の笑顔になったその男を見ながら、スフィアーネはげんなりと肩を落とした。

一通り挨拶を済ませて、指南役の騎士が部署の扉から姿を消した途端、スフィアーネの席に近い女子職員たちが詰め寄ってきた。


「ノーツ卿と知り合いなの!?」

「……王立学院時代の先輩なんです」


それだけ?とでも言いたげな同僚たちの視線に気づかぬ振りで、スフィアーネは自分の業務に戻った。


たとえ年頃が近かろうと、最悪学院の同窓生であったとしても、互いに面識があるなんてことはよほど深い縁でもない限り可能性は低い。

だが悪いことに、剣指南役として王都からやってきた騎士、ジェレミー・ノーツとスフィアーネの間には、まさにその浅からぬ縁というのがあったのだ。


(よりによってどうして………)


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