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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
一章 道しるべを探す旅

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28/28

偏ったエンカウント率



 塔の中にさぞ大量に敵が待ち構えているのではないか……

 そんな風にユッカは一応警戒をして足を踏み入れたわけだが。


 思っていたよりは出なかった。


 球体人形が襲ってきたものの、それらは全部ロゼの魔法で吹っ飛ばされたし、その後はあまり出てこなかった。

 楽でいい、と思いはするも、そのかわりに向こうに押し寄せているんじゃないかとも思う。


 球体人形を倒すのに若干の躊躇いがあるのはアーロスであって、そちらに行った方がアーロスの精神を揺さぶる事はできる、となれば何の躊躇いもなくぶっ飛ばすユッカたちよりもそちらに向かわせた方が後々アーロスが使い物にならなくなる可能性が高いのだから。


 なのでユッカにとってこの塔の最大の難関は、階段だけだ。


(実のところゲームキャラのステータスがどんだけ低かろうとも現実の人間よりは絶対強いのではないか……なんて思ってたわけなんだけど、たとえ体力とかがゴミカスレベルでも階段とか坂道を一定の速度で移動し続けられるって考えると絶対あっちのが強いって)

 ゲームシステム的に移動速度を一定に保っているだけだとしても、そう思わざるを得ない。


 何故なら既にユッカの足はお疲れ気味であるからして。


 ここに球体人形たちが襲ってきていたら、ユッカとしても何もかもどうでも良くなって、

「行けっ、ロゼ! 君に決めた!」

 とか言い出してなんかすっごい魔法でぶっ飛ばせとか指示を出しかねない。

 正直既にそういう心境なのだ。


 だからこそ、余計な敵が出てこない、というだけでもマシに思えてきた。

 塔の中は一つ目と二つ目の塔と比べると若干内装が異なってはいたものの、それは単純にもう一つの塔と繋がっているからだとわかってはいる。


 わかってはいるのだが……そのせいで真っすぐ上を目指すだけではいけないという事実。


 小部屋の中に何やら床に設置されてるやたら大きなレバーがあったりして、最初は罠かと思ったが、しかしそれを引くことで先へ続く扉が開いた時点で薄々察してはいたのだ。

 引いても何も起きないレバーも勿論あった。

 だがそれはきっと、こちらではなく向こうの塔の仕掛けに関わっているのではないかと思っている。


 現にこちらで何かの仕掛けを見落としたつもりもないのに先に進めないところがあって、しばらくどうしたものかと悩んでいたら勝手に先へ進む道が開けたので。


 恐らくは向こうの塔でディオスとアーロスの二人が仕掛けを解除したのだろうな、と思うしかない。


 つまりユッカやディオスたちが途中の仕掛けをスルーして上を目指すと、途中でどちらかが先に進めなくなり、そうなるともう片方もいずれは先に進めず引き返して見落とした仕掛けを探す事になり得るのだ。


「なんて面倒な」

「本当にそう。でも問題は……分かれて行動してるから、向こうで何かあってもこっちがそれを知る機会がないって事なんだよね」

「ロゼの魔法でこう……遠く離れた相手と連絡とったりとかできないの?」

「難しいかなぁ……召喚するのにだって相応の儀式をしないといけないわけだし、そういう遠隔で会話をする魔法もないわけじゃないけど……」

「あぁ、事前になんか用意しないといけなかったり、距離とか条件が限られてる感じ?」

「そういうこと」


 携帯電話とかスマートフォンとか、そういうのはこっちの世界にないのだろうか、と思うもまぁないんだろうなと即座に納得した。

 あったなら、そもそもロゼが弟子を他の地区から召喚しようとしたりせずに普通に連絡をとっている。


(まぁ、地区自体が離れてるし、電波とかどこまで届くかもわかんないもんなぁ……)


 ユッカの住んでる世界なら海外でも通話できなくもないけれど、しかしここは物理的に大陸が地区ごとに離れている。空に浮いてるし場合によっては崩落して消滅するようなところだ。

(いやでも、他の地区に転移する事が可能なんだから、頑張ればできそうな気はするんだけどまぁそれを今ここで言ったって仕方がないか)


 言ったところでそれを誰が作るのかという話だ。


「一応同じ地区間でなら距離があっても連絡の取りようはあるけど……気軽に誰もが、ってわけじゃないからね」

「そっか、うん、今ここにその方法がないなら仕方ないね」


 であればユッカたちにできる事は、途中の仕掛けを見逃さず、確実に仕掛けを解除していくしかない。

 

 ディオスたちの進行具合によっては、少しくらい休憩できたりもするかなぁ……なんてぼんやりと考えてはみたけれど。

(いや、むしろこっちが向こうを待たせる可能性のが高いな。甘い考えは捨てて進めるうちに進まないと……)


 いっそ治癒魔法ドーピングとかできないだろうか。

 そんな事を考えてから、ユッカはともあれ足を動かしたのである。



 ――ディオスとアーロスもまたもう片方の塔に足を踏み入れて、上を目指していた。

 ユッカたちとの違いといえば、向こうは球体人形が襲ってきても一度撃退したあとはほとんど出てこなくなったものの、こちらはそうではなかったという事だ。

 ユッカが予想した通り、球体人形たちはアーロスへ助けを求めながらも襲い掛かり、そして倒されては断末魔の悲鳴を上げる。

 その後別の球体人形に宿った彼らは、先程の事も含めて恨み辛みと救いを求め、またもや倒されるのだ。

 それを何度も繰り返しながら進んでいく。


 正直に言って、アーロスの顔色はユッカたちが出会った当初と比べると今が一番最悪な状態だと言える。

 戦意を喪失したと言ってもいいアーロスにかわってディオスが魔法で撃ち落としている。

 ここで良心の呵責だとか、これ以上かつての知り合いを苦しめたくないなんて考えからアーロスが球体人形をこれ以上傷つけないようにディオスを止めるような事になっていれば、恐らく共倒れしていただろう。

「辛いのなら、耳を塞いでいて構いませんよ」

 もっとも、それがどこまで効果を発揮するかはわからないが。


 けれどもそんな風にディオスに言われた事で、アーロスは決まり切らなかった覚悟を決めたようだった。


「いや、アンタ一人に任せるわけにもいかないさ……できる事は限られてるけどな」


 飛び回り近づいてきた人形の顔面にアーロスの拳がめり込む。

 ばぎょっという音をたてて頭が割れると、絶叫しながら落ちていった。


「すまない……俺はあんたたちに救いをもたらせない。

 だが俺はクークラを止めてみせる……!」


 救いを求める声。けれどそれが成されないとアーロスが告げた事で恨み言のような言葉も人形から吐き出された。けれども同時に、同じ声でクークラを止める事を望む言葉も小さいながら聞こえてきた。


 すぐに救えはしなくてもクークラを止める事ができれば、これ以上彼らが人形に宿され続けて破壊され続けるという状況が終わる事にはなる。それが救いになるかはさておき、強制的に続けられる苦痛からは解放されるだろう。


 とはいえ、彼らの意思で襲い掛かっているわけではないので人形たちが攻撃の手を緩める事はなかったが。


 それでもディオスだけで対処していた時よりもアーロスが参加した事で、先へ進む事もできるようになってきた。今まではディオスがアーロスを守りながら人形と戦っていたので中々進めなかったのだ。


 途中にあるこれみよがしなボタンを押したり、レバーを引いたりして進んでいく。


「おいこの階、どこにも階段がみつからねぇぞ!?」


 そうして進んだ先の階層で、アーロスが叫ぶ。

「落ち着いて下さい、そちらの扉の先にあるかもしれませんよ」

「くそっ」

 扉を守るように集まる人形たちを蹴散らしながら、アーロスが扉に手をかけた。

「開かねぇ! どっか仕掛け見落としてないか!?」


 見落とすも何も、ディオスが目隠しをしている事はアーロスにだってわかっている。

 けれども、ここまでの間でディオスの目が見えていないというのは有り得ないとアーロスも確信しているのだろう。球体人形たちをいなしながら、アーロス自身も周囲を見回す。


「こちらになければ向こうの方ではないかと。ユッカさんたちに期待するしか……どうやらその必要もなくなったようです」


 アーロスがどれだけ力を入れて押したり引いたりしてもビクともしなかった扉がギィと軋んだ音を立てて勝手に開いていく。


「な、この先は……」


 びゅうと風が吹く。

 それなりに上がってきたという自覚はあった。

 けれども塔には窓がなく、外の様子はわからなかったので。


 扉の向こうに広がる景色を見て、想像以上に高いところまでのぼってきたのだと理解する。


 扉の向こうには通路が伸びている。その先にはもう片方の塔があり、次はあちらの塔に移動するしか道はない。


 だが、通路は緩やかな階段状になっており、そしてかろうじて手すりがついているとはいえ、位置は低めだ。うっかりバランスを崩せば手すりを越えて地上に落下するかもしれない。



「高所恐怖症の相手だったら進めないやつじゃん!」

 少し離れたところでユッカの叫び声がした。


 見れば、少しだけ下の方に同じように伸びている階段状の通路にユッカとロゼがいた。


「おうい、無事かぁ!?」


 アーロスが大きな声で呼びかければ、ユッカは声のした方を見上げて――


「アーロス! 上!!」


 とにかく叫ぶ。

 大声を出さないと、びゅうびゅうと吹きすさぶ風の音で掻き消されてしまいそうだった。

 その声がどうにかアーロスに届いたらしく、咄嗟に上を見たアーロスは横に移動し回避しようとするが――


「うわっ!?」


 上から降るように襲ってきた人形の一撃が掠り、バランスを崩しよろけて手すりの向こう側、つまりは地上へ落ちそうになる。


「アーロスさん!」

「ぐっ!? す、すまん」


 落ちそうになったアーロスの腕をディオスが掴み、どうにか引き戻す。

 それを見上げていたユッカも、ホッと安堵の息を吐いた。

 仮にアーロスが落ちたとして、羽があるから途中で上手い事どうにかなるかもしれないが、しかしそれでもそれを妨害するべく他の人形が襲ってきたなら彼はそのまま地上に落下していたかもしれないのだ。

 そして少しばかり下にいるとはいえ、ユッカだってアーロスを引き留めるような事が咄嗟にできる気はしていなかった。

 ディオスがいなければユッカはただ茫然と見ているだけだったかもしれない。


 危うくショッキング映像を目の当たりにするところだった、と内心で思いながらも安堵するユッカは、まだ他に襲ってくる人形はいないかと空を見上げる。


「今のところそっちは大丈夫そ?」

「あぁ、ひっきりなしに襲ってくるのが厄介だがな」


 お互いが大声で確認し合う。

 他にも色々言いたい事や聞きたい事があるけれど、しかしここでのんびり話をしてまた人形が襲ってくるような事になるのも厄介だ。

 お互いにそう判断したからこそ、やや足早に進みそれぞれが塔の中へと入っていった。



「すまん、大丈夫か?」

「何が、ですか?」


 塔の中に入り、扉を背にアーロスはディオスを見た。

 先程落ちそうになった自分を引き戻した時、やはりと言うべきかそれなりに腕に負担がかかったのは間違いない。

 彼の目は隠されていて表情をハッキリと確認できはしなかったが、それでもアーロスから見て苦しそうに見えていたからこそ、余計な負担をかけてしまった事への申し訳なさが残る。


 あの時、すぐに飛べていたのなら。


 そうしたら。



 咄嗟だったのもあって、ディオスが片腕でアーロスの全体重を引っ張り上げたようなものだ。

 肩が外れたりはしていないようだが、だから無事であるというわけでもないだろう。


「……すまん」

「何に対しての謝罪かわかりかねますが……まぁいいでしょう。受け取っておきます」

「次は、避けるなり迎え撃つなりする」

「頼もしいですね」


 口調だけなら何て事のないような感じのディオスに、アーロスもそれ以上言い募るような事はできなかった。


「僕からも一つ言っておきます」


 ぐっ、と唇を引き結んだアーロスだったが、そう言われた事で一体何事かと問おうとして口が微かに開いた。


「貴方の目的が何であれ、命は大切にしないといけませんよ」


「俺の目、的……?」

「えぇ、貴方を待つ人がいる以上」


 そこまで言ったことで、ディオスは言うべき事は言ったのかそれ以上は言葉が続かなかった。

 そうして歩き出したディオスの後を追うように、アーロスも足を動かす。


 言われた言葉が理解できなかったわけではない。

 けれども、どういう意図で言われたものなのか。それだけがわからなかったがために、アーロスは思い切り困惑し――


「あんた、もしかして以前の俺の事を知ってるのか……?」


 思わずそんな風に問いかけていた。

 それに対するディオスの返答はというと――


「いいえ」


 実にあっさりしたものだった。

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