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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
一章 道しるべを探す旅

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本題は一瞬



 そういうわけでディオスが手配した宿で、ロゼとユッカはベッドに腰を下ろした。

 当然ではあるがディオスとは別室である。

 なお料金に関して、ディオスは文無しであるのでロゼが立て替える形となっている。ディオスにはユッカが立て替えたと思わせているが。


「それじゃ、まずボクたちの状況をおさらいしよう」

「うん」


 本当だったらここに来るまでの道中で確認し合うべき事だったのかもしれないが、ディオスやナナイがいた以上話すのも難しい。

 ユッカはロゼに手違いで召喚された側ではあるけれど、ロゼが帰すと言っているのでそこまでの心配はしていない。帰れるとわかっているのだから。


 けれどもその儀式の途中でロゼの家近辺が崩落し、ユッカが帰るための儀式――召喚の逆である送還術は中断された。中断も何も、まだ始める前だったという突っ込みはユッカも流石にしてはいない。


 その時に必要だった道具が駄目になり、儀式をやり直すためにはそれらを用意する必要がある。


「先にロゼが戻る方法とか考えなくてもいいの?」

「時間経過で戻ると思うから、そこは考えなくていいよ。いざとなったら時間を進める魔法を使えば……いや、それはそれで疲れるからそれは本当の本当に最終手段にしたいし、放置で解決できるってわかってるならそこに労力は費やしたくない」

「それは確かに」


 放置しても解決しない事態であるならまだしも、解決できるとわかっているのなら確かにそこまで急いでなんとかしないと……と思わないというロゼの言葉も一理ある。

 ユッカにしてみれば、人の姿から猫に変わったという点で不便ではありそうだなと思うけれども。

 食事に関しては人が食べるものと変わらず食べられるそうなので、それもそこまで急いで戻ろうと考える必要がない要因なのかもしれない。


 猫の姿の時は人の食事も塩分的な意味でダメ、とかだと相当苦労しそうである。

 ユッカは猫の玉ねぎなどのネギ類を与えてはいけないというのは知っていても、他に何が駄目なのかそこまで詳しくないので。

 知らず食べさせちゃダメなものを与えたりしたら、大変な事になってしまう。

 ロゼは猫の姿をしていても猫ではないので、自分で食べていいもの駄目なものをわかっているのでユッカもそこまで頭を悩ませる必要はない。


「これからボクたちが集めなきゃいけない物は五つ。

 クロンターリ、プリクターレ、スヴェトゥリイ、ウリアーロ、イレエーチ。

 これがなければ儀式は行えない」


「えっと、その、名前だけ言われてもそれがどんなものかわかりません」

 むしろ何の呪文ですか? としか思えない。

「あ。そっか。ごめん。

 まずクロンターリ。これは魔法石の一種なんだ」

「うん」

「どこで採取できるかは……ちょっとわかんない」

「あれっ!?」

「昔は採取できるところもたくさんあったんだけど、年々減少してるしいくつかは崩落した結果採取場所が消えたから……これについては所持している人から譲ってもらうか、採取できるところを見つけるしかない」

「なるほど」


 情報収集とかしないといけない系か。

 持ってる人から譲ってもらう、という方法もありとロゼは言うが、しかし恐らく貴重な物ならそう簡単にはいかないはずだ。

 初っ端から中々難易度が高そうだぞ……? と思う。


「プリクターレは聖水を結晶化させたもの。これは採取できる地区がまだあるからそこまで問題はない」

「そうなんだ」


 聖水って向こうの世界のやつとは多分違う感じなんかな? と思いつつも、結晶化という点で氷とかではないんだよね? と内心で考える。まぁそれならそれで凍らせたものって言われるよな、と即座に浮かんだ考えを打ち消した。


「スヴェトゥリイは鳥の羽だね。これも目撃情報が少ないから、探すのが少し大変かも」

「絶滅してるとかではない?」

「してないよ。警戒心が強くて滅多に人の前に出てこないだけ。

 だから、人のいない場所とか探していけば見つかる可能性はあるかな」

「なるほどね」


 そんな警戒心の強い鳥とか見つかったところで捕まえられるんだろうか……と思ったが、魔法の力で何とかするしかないんだろうな、で納得する。それ以上考えたところで今のユッカにどうなるものでもなかったので。


「ウリアーロは聖花の一つだよ。これも採取場所はわかってるからどうにかなる」

「……印象的になんか険しい山の上とか、滅多に人がこないどこぞの奥地とかかな?」

「ま、そういう感じだと思ってくれればいいよ」

「大変そうだけど、不可能ではない?」

「うん。それからイレエーチも似たような感じで、神樹の枝なんだ。これも入手方法はどうにかなる」


「それらが揃えば儀式を行える?」

「うん。そしたらユッカはちゃんと帰れる」

「成程ね……」


 ロゼのなんとかなる、がどれくらいの難易度かはよくわからないが、それでもロゼが不可能ではないというのならどうとでもなるのだろう、と思う事にする。

 ユッカ一人なら不可能かもしれなくても、ロゼがいるのだ。

 少しばかり入手難易度が高そうな物があるけれど、今からそれを気にしすぎたところで意味はない。


(ゲームなら、いくつか集めていくうちに他の情報とか、入手フラグとかができたりするけど、そう都合よくはいかないだろうから……根気と忍耐は必要そうかも)


 ここに来てロゼがユッカの時間をほぼ止めた事がようやく理解できた。

 ある程度入手の目途が立っているところはともかく、まず探すだけでも大変そうな物に関して、果たしてどれくらい時間がかかるか本当にわからないのだ。

 年単位で探す可能性も有り得てくる。


(召喚された直後はちょっとだけ観光とかしてみたいなー、なんて思わなかったわけじゃないけど、まさか強制的に旅に出る事になるとか思わんよなー……)


 帰れる道が残されてるだけ充分すぎる程マシではあるが。


「そういえば」


 そこでユッカはふと思い出した事を口に出した。


「ロゼのお弟子さん? その、本来召喚しようとしてた人」

「イシェル?」

「そう、その人とかから今言ったアイテムの情報とかは得られそう?」


 ユッカとしては特に深い考えがあったわけではない。

 ただ、家にこもっていたであろうロゼよりは、外で何やら活動しているらしきその人の方が各地の情報を多く持っているのではないか、と思っただけだ。


「うーん……どうかなぁ、可能性としてはゼロではないけど。

 そもそも今のこの姿でイシェルに声をかけるのもちょっと」

「それもそっか。

 っていうか、これ聞いていいのかわかんないんだけど」

「なぁに?」

「どうしてその人を呼び寄せようとしたの? 緊急の用事があったとか?」


 間違ってユッカが来たことでそれどころではなくなったのかもしれないけれど、もし何か用事があるのなら今のロゼがイシェルの前に姿を見せるのは無理でも、ユッカが伝言を頼まれたという形にして連絡をするくらいは可能ではないか、という考えがよぎる。

 ロゼがユッカの面倒をあれこれ見てくれているのは、まぁそこは仕方のない面もあるけれど、それでもユッカとしては何もかもを世話になっているのも心苦しくなってくる。

 手伝えるものがあるのなら、できる範囲で。

 勿論、ユッカは魔法も使えないただの人間なのでできる事はたかが知れているけれど。


「あぁ……それか。

 急ぎではないから、大丈夫だよ。ただ」

「ただ?」

「本を返してほしかったんだ」

「本?」


「魔導書」


「それ重要アイテムでは?」


 ユッカの世界に魔導書なんてものは存在しない。あったとしてもオカルト関係か、二次元の作品の中のアイテムである。だが魔法が当たり前に存在するこの世界では、もしかしたら貴重な物なのではないかと思うわけで。


「うん、お母様の記した本なんだけどね。読み返したくなって」

「お母さん……? ロゼのお母さんって事はその人も魔女って事だよね」


 ユッカがそう言えば、ロゼはパッと表情を輝かせた。

 今のロゼは猫であるというのに、それでもわかるくらいの輝かしさにユッカは意表を突かれた気分だった。


「そう! そうなんだ。お母様は凄いんだよ。大魔女マギサリュクレイア。ボクの自慢のお母様さ」


 そう言うロゼの声は弾んでいた。目には憧れが浮かんでいた。

 それがなんだかとても眩しく感じられて、思わずユッカは目を細める。

 何が凄いのかはさっぱりわからないけれど。それでも、凄いんだな、と感じる事はできた。


「ちなみにロゼのお母さんは今どこに?」

「それがわからないんだ。もう随分と見ていないから」

「そうなんだ……」


 踏み入っていい事情かもわからないので、ユッカはそれ以上何も言えない。

 生憎とユッカのコミュニケーション能力はそこまで高くないので。


 もしかしたらロゼは誰かにそんな凄い母親の話をしたかったのかもしれない。

 そう思ったのは、ロゼが目をキラキラと輝かせて語り始めたからだ。


 ユッカとしても自分が帰るために必要な事は今しがた聞いたし、それがどこにあるだとかを聞くのは後でも問題ないと思ったからこそ、静かにロゼの話に耳を傾ける。


 きっとロゼがここまで言うのだから、知っておいた方がいい情報なのだろうと思って。


 ユッカの中のこの世界の情報は驚くほどに少ないのだ。

 偏っていようとなんだろうと、知っている事を増やすのは最終的に自分のためになる。


 というのは建前で。


 単純にロゼの語るお母様の話が面白かったのだ。


 気付けばすっかり夜は更けていた。

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