JAD-267「沈黙の廃墟」
「つまり、私が思ってるより退避してる人間は多いんだ?」
「ああ、その通り。中央から押し出されるように逃げてきて……といった感じだな」
休憩のための野営。
そこで集まってきている車両の数や人数は予想以上だった。
もっと人類は追い詰められている!みたいだと思っていた私にとっては、予想外。
集落の周囲は、自然たっぷりで開拓も微妙だったのに、と疑問を口にしてみた。
その返事は、これぐらいなら問題ないというものだった。
たまたま私たちが出会った場所があの集落だっただけ。
周囲数十キロ圏内に、同等の集落が多くあるのだとか。
何年もかけて、段々と大陸の中央からは距離を置くことになったのだという。
(間に合ったと考えるべきか、恐ろしい侵略具合と考えるべきか……)
間違いないのは、後数年こちらに来るのが遅かったら、全部終わった後だっただろうということ。
それこそ、大陸全部が機械になっていたかも、しれない。
「自然の回復力は、おそらく異常なほどだ。壁の外に畑がないのは、すぐに回復してしまうからなんだ。毎月、森を焼いて畑にしてるぐらいだ」
「それは、なんというか……すごいとしか言えないわね」
答えながら、私の知らない力がまだあるのだろうなと感じる。
石の力を使うことは難しいというが、その代わりに自然の回復力は上がっている。
一度畑にしても、そのうち戻るというのならば相当だ。
「そうだな。例えばこれも、よく見ていてくれ」
そう言って、男は足元に生えていた雑草を適当に踏みつける。
しっかりと潰れたはずの雑草が……徐々に元の姿を取り戻していく!
「と、こういう感じだ。完全に引き抜いたり、切る、焼くぐらいしないといけない」
「よく集落が維持できていますね……」
カタリナの意見に、私も同意だ。
これでは、町を作るどころではないように思う。
「そこは不思議でな。一度住み着くと、集落の中は普通なんだ」
「そうなの? 謎すぎる……」
見えないだけで、未知の技術がすでにあちこちにあるのかもしれないわね。
それはもしかしたら、人や動物にまで……こっちはわからないからいいか。
「さて、出発しよう。日暮れ前には現地で陣を作りたい」
「ええ、わかったわ。残骸は無視していくわよ」
再びの移動。
宣言通り、途中で破壊しておいた無人機たちは無視。
資源にするにも、少数すぎるともいえる。
ただ……すでにそれらが草花に覆われ始めてるのを見て、話が本当だということがわかった。
「土壌の栄養とかどうなってるのかしら……」
「細かい成分分析とか、してみたいですね。わかることがあるかは不明ですが」
私やカタリナも、そういった専門家ではない。
せいぜいがセンサー類や、戦闘に必要な範囲での検査ぐらいだ。
そんなことを考えていると、目的地が見えてくる。
「どう? あの場所で間違いない?」
『ああ、間違いない。本当に動いている奴がいないな……』
無線の返事を聞きつつ、一応警戒をしながら近づく。
周囲の車両やJAMも、武器を準備した状態だ。
それも、町に接触したところで解除。
外は草花が浸食を始めているが、中はそうでもない。
そのことを改めて確認しつつ、広場のような場所で今日は泊まるとのこと。
一応見張りを立て、一晩を人気のない廃墟たちの中で過ごすことに。
「明かりを打ち上げて置いたらだめよね?」
「何かあったら狙われますからねえ……」
焚火の明るさが、少々頼りなく感じる夜。
結局は何事もなく、朝になるまで平和だった。
「まずは壁の確認と、銃座の設置、修復をする部隊と、街中の探索をする部隊に分ける。探索の支援をお願いしていいだろうか?」
「もちろん。生産設備の案内もしたほうがいいでしょう?」
同意を返しつつ、ブリリヤントハートに乗り込む。
一度見た時には、特に珍しいものはなかったような気もするけど、果たして。
自分たち以外が物音を立てていない空間を、探り始める。




