JAD-253「段階を踏んで」
朝、浮上する意識。
ベッドから起き上がり、枕の下からハンドガンを取り出す。
旅先以外での、朝のルーチン。
襲撃を受けたことを想定しての、肉弾戦をイメージ。
無理のない動きを考えつつ、仮想敵を倒す。
そうして何人かの仮想敵を沈めた後、体は完全に目覚める。
「私は……何を成す?」
最近、時間があるたびに自問している。
結局のところ、自分はほぼ間違いなく設計され、作られた人類だ。
石の、星の力を引き出して戦うすべを身に着けた、超人のようなもの。
ジュエリストとして、活躍できたのも当然だ。
一般のジュエリストとは、そもそもが違うのだから。
(だからといって、なんでもしていいわけじゃ、ないわよね)
自由にしていいというのは、わがままであっていいということではないと思う。
決断は好きにしていいが、その結果の責任もセットなのだ。
「私は、人の営みを見守りたい。だから、世界を染め上げるような戦いは、つぶしておきたい」
例えばそう、無人機を引き連れて統一国家でも作る気なのか?なんて動きは。
争いあうべきというわけじゃなく、世界はその意味ではばらばらがいいと思うのだ。
「ふう……今なら弾丸も回避できそうな気がするわね」
ただのよくあるハンドガンだけど、その銃口まで意識を向けてポーズ。
空気の動きまで、感じられるようだった。
まるでそれは、自分の中から石の力を引き出すような不思議な感覚。
調べたことはないけれど、私の体の中にも普通にはないナニカがあってもおかしくはない。
記憶の通りなら、生身でそういう戦いをした記憶すらある。
この世界で、そんなことはあまりしたくはないけれどね。
「よしっと。カタリナ、ぐっすり寝てる。整頓するデータ量が多いのね」
私が起きたのが、まだ空が白くなるかどうかのころだから仕方ない。
まだ、彼女は別のベッドで静かにしている。
起こせば起きてくるだろうけど、それもちょっとね。
彼女は、演算と記憶領域としての機械を頭に埋め込んだ、機械の体の持ち主だ。
いうなれば、自意識のあるJAMとも言える。
私にとっては人間で、今も昔もそれは変わらない。
記憶の中の性別が、男女どちらかあいまいな私だが、彼女のことは気にしている。
私を理解できるのが彼女だけだろうという思いも間違いなく、ある。
(できるだけ、一緒にいたいわね)
これが、世間でいう恋なのか、愛なのか。
他人への愛なのか、家族への愛なのか。
それはわからないけど、大事な感情。
「ま、なるようになるでしょ。なんでも、ね」
呟きながら、装備を適当に身に着ける。
数日は、準備のためにこの街に滞在予定。
その間に暇にならないように、簡単な仕事を受けるべく外へと出る。
外は、まだ朝早いがすでに人々の営みが感じられる。
朝早くでかける人もいれば、畑仕事に行くのだろう人もいる。
多くの人が、物騒な装備をしてることを除けば、平和な街の姿だ。
農作業に向かうだろう人が、ミュータント対策の大きな猟銃を背負っていたりなんてことはあるが。
「こういう景色を、守らないとね」
「レーテなら大丈夫ですよ」
思っていなかった声に、慌てて振り返る。
そこには、声の通りの……カタリナ。
急いで出てきたのか、ちょっとだけ髪の毛がぼさっとしている。
「おいていかないで下さいよ。気配でわかっちゃいましたけど」
「ごめんごめん。記憶領域の整頓、大変でしょう?」
ごまかすような指摘に、確かにそうですけどなんていう姿も、かわいいと思う。
まさに、人間らしい反応だ。
手足とかの体は、体調の悪い人よりさらに冷たいのが残念ではあるけれど。
「今回はごまかされておきます。それより、何かやるなら海のものやりましょう。沿岸部に来る相手の対処、覚えておいて損はないと思います」
「なるほど、それはいい考えね」
盲点だった、海洋ミュータント相手の経験。
ゼロではないけれど、迎撃ぐらいしかしたことがない。
気持ちを新たに、カタリナを引き連れて仕事を探しに出歩くのだった。




