JAD-243「眠る力たち」
建物の入り口付近が、甲虫の死骸、体液、大量の砂で埋まる。
もともとあったがれきも混ざり、なかなかに見た目がえぐい状態だ。
「動きはないですね。打ち止めでしょうか」
「だといいけど。ラストピースより。流すわ」
『了解』
返事を聞きつつ、サブのアクアマリンから力を。
ホースで消火活動でもするように、入り口付近へと放水する。
中に機材が多少あるかもしれないけど、このまま探索開始は正直、無理。
ガス対策に密閉していて、本当によかったと心から思う。
主ににおい的な意味でね。
全部は無理なので、大体のところを水で押し流すと、建物の中がよく見える。
「工場かしら、倉庫のようにも見えるけど」
『あいつらがいたんじゃ、荒らされてるかもな』
悲しいことに、それには同意せざるを得ない。
高さはJAMの2倍はある、大きな建物だ。
さらなる敵に注意しつつ、中へ。
多くの機材、コンテナ、そして争いの跡。
気になるのは、バリケードのように積みあがってる箇所が多いことだ。
その割に……おそらく100年単位で昔のものだと思うけど、外と比べて傷みは少ない。
奥の方に、高さ目いっぱいという感じの重機が……いや、あれは。
「正面奥、ミュータントの残骸っぽいわね。念のために前に出るわ」
思い返せば、前に似たような光景を見たことがある。
建物の中に住み着いた巨大なミュータント。
あるいは、何かを目標にして力尽きていたのもいた。
そんなことを思いつつ、近づいていくとその大きさがわかる。
種類は昆虫……大きさは車両は優に超えている。
足がもうないように見えるけど、あったとしたらJAMより大きいかも?
殻っぽい部分に穴が無数に空いているのを見ると、ここで銃撃にあったんだと思う。
そんな巨体が、がれきの山にのしかかるようになっている。
「もしかして、ここに閉じ込めて相打ち覚悟で仕留めたのかしら」
「追い込まれたのかもしれませんけどね。そのあたりはわからないですね」
うなずきながらよく見ると、向こう側は開いている。
とはいえ、朗報だ。
もし、閉ざされていたら……とんでもない。
長い間、先ほど倒した連中は中で生き延びていたことになる。
もしそうなら、何を食べていたのか、とか大きな問題があるからね。
「どうも昔に倒されたミュータントの死骸みたい。素材にもっていく?」
『少しはな。でかすぎる』
それもそうかと思い直し、改めて巨体を見る。
散らばる銃器、そして骨。
バラバラなのは、力尽きた後にあいつらに襲われたからか。
と、巨大甲虫の下に、気になるものを見つける。
しっかり閉まったままの、シャッターらしきものだ。
しかも、床にあるところを見ると、下へと向かう道だろう。
「下への道があるわ。でかいやつの狙いはそれじゃないかしら」
「虫たちにかじる力がなくてよかったですね」
まったくである。
問題は、ガスは下にたまるだろうということだ。
見た目はともかく、どこからかこの下の空間にガスが入り込んでいないとも限らない。
「ガスがひどかったら他に行くわよ?」
『そうしよう。よし、やってくれ』
まずはと、巨大甲虫の死骸というか殻を他のJAMと一緒にゆっくりとどかす。
そして、がれき……いや、もともとはふさぐためだろうだったものをどかし始めた。
シャッター自体は、JAMクラスのものであれば動かせそうだった。
もう一機のJAMと一緒に、ゆっくりと引いていく。
大きな音を立てて動いていくシャッター。
これが結構時間がかかってしまう。
なにせJAMすら通れそうな雰囲気の広さで、シャッターはかなり長い。
(今度は何も出てこないわね)
正面で警戒するJAMを見つつ、最後までシャッターを動かしていく。
真下はかなり深く、斜めにスロープが続いている。
「生体反応はなし。熱源は……うーん、建物全体が予想より暖かいですね」
「それはそれでちょっと気になるわね」
警戒は続けてもらいつつ、スロープを降りていく。
JAMの足音と、二輪、四輪車のエンジン音だけが響く。
そうしてたどり着いた地下は……倉庫であり、工場でもあるようだ。
『こいつは、展覧会か?』
「似たようなものね。使えるのは少なそうだけど」
まるで地下にある秘密基地のようだ。
見た目だけは立派な車両、武器、そしてJAMらしき影。
しかし、その多くが触れたら崩れそうなほどに、古ぼけていた。
「保護コンテナの類を探しましょ」
「レーテ、あれを」
言われてみた先には、箱を縦にしたような何か。
大きさはJAMが立っているような状態の……んんん?
慌てて周囲を見渡すと、別の区画には大きな大きなシリンダー。
中身はいないが、明らかに生き物用だ。
「箱の方は……もしかして、JAMが中に?」
「かもしれません。保護がどこまで効いているかですけど」
一言外に断りつつ、その箱へと近づいていくのだった。




