JAD-240「白煙をにらむ」
地上に戻った私たちは、スミスおじいちゃんに礼を言い、押し付けるように支払いをした。
このおじいちゃん、良い物をいじらせてもらったと、妙に安い金額を言ってきたのだ。
「ちゃんとした仕事には、ちゃんとした報酬をってね」
「それ、あまり報酬をもらってないほうのレーテが言うと、説得力ないですけどね」
鋭い突っ込みに、思わず呻く。
確かに、必要な分以上には、請求をしない癖があると自分でも思う。
おそらく、ゲームとしての報酬は決まっており、それで計算するころの名残だ。
(報酬を交渉するようなコンテンツはなかったもんね)
ちなみに、機体のほうは意識して戦闘時ではないというモードに切り替えることもできるようだ。
明確な違いはないのだけど、うっかり建物の中で天井まで飛びあがる、といったものがない。
操縦にもっと慣れていけば不要になるかもしれないけど、今はこの方が良いと思う。
じゃれあいながら、戦闘時のような敏感さで操作するのはちょっとね。
「困難な依頼なら、相応にもらうわよ? あとは、周りの相場次第ね」
「そんなこと言っても、多くは物品のほうが強いですからねえ」
それは間違いない。
国家という存在が崩壊し、企業がその代わりを務めている状態。
よそにいったら何も買えない、では困るからと使い続ける電子通貨。
でもそれは、どこまでいっても実体のないお金のような何か、だ。
僻地ほど、物品が強く、物々交換だってよくある。
労働の対価に、物資というのも当たり前だ。
「そうね。私もこの中にだいぶ溜まってるけど、さっきみたいなときじゃないと使いにくいわ」
言いながら、コックピット内部の映像を切り替えていく。
とっさに必要な情報を表示させるための訓練だ。
幸いにも、これにはカタリナも干渉可能であることはわかった。
普段は彼女に任せておけばいいという、これまで通りだ。
「言わずともこれを強調っていけるのは判断しやすいわね」
「今まで通り言ってもらえれば、サポートはできますので」
もちろん、と返しつつ操作を続ける。
映像を近づけたり、遠ざけたり。
熱源反応に切り替えたり、と色々だ。
「さてっと、このぐらいにして仕事を探しますか」
「レーテ、意外と何かしてないと落ち着かない方ですよね」
「んー、最近はそうかもね」
笑いながら、機体を降りて向かう先は酒場。
休暇にしている面々も、そうでない面々も集まる場所だ。
最近気が付いたのだけど、私たち以外にも女性のジュエリストはいないわけじゃない。
さすがに数が多いとは言えないけど、普通にいる。
ただ、戦うような依頼はあまり受けず、どちらかというとJAMを重機として使うようだ。
「これなんかもそうよね、開拓手伝いとしての伐採とか」
「手頃ではありますよね」
ほかにも色んな仕事が、昔の案内所よろしく並んでいる。
ゲーム時代のクエストが並ぶ空間を思い出すけど、罠依頼はたぶんない。
「なあ、少しいいか?」
「儲け話ならいいわよ」
「そりゃそうだ。あんたら、ラストピースだろう? 強いジュエリストだっていう」
話しかけてきたのは、あちこちに古傷のある大男だった。
黒髪を、いかにもという感じで適当に短く切っている。
肉体派のようだけど、本人もジュエリストの様子。
「ええ、そうよ。そっちもやるみたいじゃない」
「お、さすがだな」
そう、ジュエリスト同士は、ある程度以上だとその力の残滓ともいうべき感覚がわかる。
ある程度強く力を使えないと感じられないぐらいの気配だけどね。
「一言で言えば、遺跡発掘だ。本当はもっとのんびりじっくり挑む予定だったんだけどよ、ちょいとな」
そう言って見せてきたのは、写真。
写っているのは、火山だ。
「これ、つい最近のですよね。私たちも見た光景です」
「ああ、そうだ。こっちの方面にな、昔の軍基地が眠ってるらしい情報が出てきた。そこには、宝石類も運び込まれてたって話だ。その分準備をしないとっていうところだったんだが」
「なるほど、宝箱が噴火に飲まれるかも、と」
覚えている地図、特にカラーダイヤが輸送された先を思い出す。
詳細はわからないが、方面としてはあっている。
1つぐらい、もしかしたら、だ。
「3分の1はそれぞれで物品分配の権利、残り3分の1は売却して分配でどうだ?」
「私は構わないわよ」
あっさりと返事をしたことに、相手が少し驚くのがわかる。
普通は、もっと儲けの割合でもめるんでしょうね。
「グダグダしてる間に、探せなくなる方がもったいないじゃない?」
「ははっ、そりゃそうだ。間違いない。俺のほうは4名、JAM3に支援車両1だ」
「こちらはJAM1、支援車両1です」
こちらが実質一機、そんな人数的なことはわかっているはず。
なのにほぼ半分を提示してきたということは、戦力として十分だと判断してるということだ。
「私のJAM、いじったばかりなのよ。メカニックが付いていきたいっていうかもだから、声かけても?」
「ああ、問題ない。では明日の朝にここで」
頷き、その足でスミスおじいちゃんのいる工房へ。
彼の返事は、すぐだった。
当然のようについてくる形で、なんなら依頼料を払うからつれていけ、とまで言われる始末。
「にぎやかな依頼になりそうですね」
「まったくね。でも、退屈はなさそう」
言いながら見上げた先では、火山から立ち上る煙が空高く伸びていた。




