JAD-239「もう1つの体」
「これが新しい刃じゃあ!」
「楽しそうで何よりだわ」
人は、片方が騒がしいと妙に冷静になるときがあるという。
今の私は、表向きそれだった。
内心では、とても興奮している。
これはそう、ゲームとしての記憶でも何度も味わった感覚だ。
「全体的に整いましたかね?」
「うむ。取り付け位置や角度なんかは当然じゃが、ブースターの位置もいじったぞ」
「消耗のほうはどうなのかしら?」
空中戦、飛行の頻度も今後増える可能性がある。
性能は上がっても、消耗が激しいようでは一長一短だ。
組みなおされたブリリヤントハートは、一見すると変わらないが……。
カタリナの言うように、整った、がしっくりくる。
「軽減はされとるはずじゃ。例の合金を使った配線も問題ない。力の通りはスムーズすぎて怖いくらいじゃな」
だから、まずは歩くことから、なんて言われてしまう。
JAMに乗って、記憶としてのゲーム時代を含めても初めてのことだ。
コックピットを開けたままで乗り込み、操縦桿を……んん?
グローブな物体が、棒にくっついている。
細かいスイッチやらは何もないようだが……。
『手を突っ込むグローブ型のコントローラにしておいた。制御に直接石の力を使う。握ればわかる』
「そうは言ってもね……やってみますか」
「モニタリングは並行して行います」
後ろに座ったカタリナに頷き、両手を件のグローブに通し、握りこんでみる。
一応、棒は前後左右、好きなように動くようだ。
「これ、棒自体はただ動くだけで何か制御してるわけじゃないのね」
『うむ。動かないと操作してる気にならんじゃろう?』
それは、そうである。
苦笑しながら、いつものように起動……!?
ダイヤ1つで、様子見と思ったのだが……これはすごい。
意識してモニターの表示を見ると、それに従って大きさや項目が変化した。
「嘘みたい。機体の足先や手の指まで、感覚がつかめる……」
「クリスタルジェネレータ正常稼働中。力の伝導率が倍以上ですよ」
頷き、ゆっくりと歩くことをイメージする。
これまでなら、操縦桿をあれこれと操作しての行動。
でも今は、考えながら石の力を動かすだけ。
それなのに、ブリリヤントハートは数歩歩いた。
『おお、成功じゃな!』
「成功って、まあいいけど。なるほどね。何かを押し込むとか倒すんじゃなく、直接制御してる感じ……」
今までのが、私が操縦し、その機械の動きを機体が読み取ってという関係だったのが、直になる。
すなわち、直接の制御だ。
試しに、棒を倒さずにただイメージをしただけでも、機体は腕を上げ下げし、歩く。
『試すなら出てすぐの広場でやってくれ』
「レーテ、これは大変ですよ」
「ふふっ。やり甲斐があるって話よ。ラストピース、ライフレーテ・ロマブナン、出るっ!」
笑みが浮かぶのを自覚しながら、機体に移動をイメージして伝える。
結果、人が走り出すようにブリリヤントハートは駆けだした。
建物を飛び出し、すぐそこの空き地というか広場にたどり着く。
そこで私は、思うままに機体を躍らせた。
片足バランスであったり、飛び跳ねたり、武器を構えさせたり。
「これは、操縦性の革命ね。全く別物だわ」
「たぶん、ベテラン以外は歩くこともできませんよ、これ」
確かに、敏感すぎるというか、考えることが多すぎるかもしれない。
どう動くか、の細かいイメージが必要だ。
ただそれも、最初は、だ。
「慣れれば、無意識に動くわね。人が歩くときに細かいことまで考えてないのと一緒よ」
いうなれば、もう一つの体のようなものだ。
私は、大きな自分の体を手に入れたといえる。
『武装テストは後日、野外でやるといい。下手に通常の射撃場でやると、吹き飛ぶかもしれん』
「冗談……とは言えないわね」
手足を狙ったつもりで、本体ごと消し飛ばすかもしれない。
そんな予感を、感じていた。
今は、空に飛びあがるだけにしておこう。
「飛翔テスト開始。カタリナ、記録と分析よろしく」
「ええ、任せてください」
数も増え、配置も見直されたブースターを意識すると、確かにそれらが自分の意識化にあると感じた。
そのまま、その場から飛翔することをイメージ。
閉じたコックピット内にも空気が圧縮される音が聞こえ、石の力がブースターに集まるのを感じた。
できるだけやわらかく、そうイメージしての飛翔は静かなものだった。
確かな浮遊感に笑みを浮かべつつ、モニターの光景が変化するのを楽しんだ。
「上昇速度もかなり向上してます。消耗は……ほぼ変化なしですね」
「ということは、すごい改良されたってことね」
生まれ変わったブリリヤントハートの力に、胸が高鳴る。
できることが増えた分、自分の責任のようなものも増えたわけだが。
「ま、やれることをやるだけだし、やりたいことが問題にならなければなお良しっと」
「そういうことですね。レーテ、見てください」
「火山……か」
遠くに、煙を上げる山が見える。
白煙は、噴火を示していた。




