JAD-228「火種の匂い」
「久しぶりの喧騒って言いたくなるわね。予想外ってやつよ」
「本当に、思ったより活気がありますね」
「ええ、もう少しおとなしいかと思ったけれど」
街に近づき、無線でのやり取りの後。
会いたい人がいると言われたので、入り口付近で待機中だ。
その間も、街中を行き交う人々の様子を観察する。
武装している人も、そうでない人もどちらも多い。
「点在していた開拓地から集まってきてるのかしら……」
私が見たことがある地域、出会ったことがある人々が限られてるだけという可能性もある。
むしろ、その可能性の方が高いだろうか?
結局、無防備には生活できないだけで、暮らせない土地というのはそう多くない。
(危険な獣、ミュータントはあまり森とかから出てこないものね)
文明は崩壊したといっても、何も残っていないわけじゃない。
銃などの武器に関しては、どん欲なまでに復活に力を入れているのは間違いない。
「移動式の工房のことは、内緒にしたほうがいいわね」
「まったくです。あ、誰か来ましたよ……リンダさんです」
こちらに規則正しいという言葉が似合う歩き方でやってくるのは女性。
前見た時と同じく、赤毛を伸ばした強気な表情の似合う姿は、女戦士、軍人という感じ。
「まさかと思ったが、久しぶりだな」
「ええ、久しぶり。景気はよさそうじゃない?」
差し出された手を握り、お互いの様子を探るように話す。
もう、相手も癖みたいなものなのだろう。
「なんとかな。あれ以来、巨大クラゲそのものは来ていない。おかげで、色々と捗るよ」
「そのものは、ね。稼げそうなら一口噛ませてもらいたいわね」
何口でもいいぞ、彼女はそう笑い、駐車場を案内するという。
3人乗るのは狭いので、適当につかまってもらった状態で出発。
ゆるやかにトラックを走らせ、案内のままに向かうのはいかにもな陣地。
見張りが何名も立ち、固定銃座までいくつもある。
「しばらく見ない間に、物騒にもなったのかしら」
「そうだな。隠すことでもない。最近な、来客が絶えんのだ」
「ミュータントではなさそうですね」
カタリナがそう感じたということは、何かあるのだろう。
私も陣地を見渡し……気が付く。
武装が、極端なのだ。
対人に有利そうなものと、JAMぐらいの相手にするもの、と。
「無人機の工場でも動いてる感じ? ついでに、便乗する不届き者も」
「恐らく。君が西側から来てよかった。もし北側だったら、発砲されていたかもしれん」
「じゃあ、来客は北から……」
頷きも、どこか疲れた様子だ。
この場所から北にまっすぐ行けば、いつかは山脈にぶつかる。
そちら側は人が住むには向かない土地だ。
つまり、その手前までに無人機の生産設備はある。
そして、それを利用する人々の集落も。
かつての、あるいは宇宙からの技術を利用できるだけの存在は、貴重ではある。
だからといって、仲間に引き入れようとはならないと思うけどね。
「無人機が9、有人が1といったところか。すぐ逃げる奴らでな。こちらの戦力をすりつぶすつもりだろう」
「向こうにとっては、こっちが予想より持ちこたえてるってところね」
いいときに戻ってきた、そう言えるだろう。
道理で、ほとんどの銃座が北側を向いてるわけだ。
「恐らく、いくらかはここであのクラゲを利用しようとしていた連中が混じってる。迂回してこようとするのを抑えることで、どうにかこうにかというところだ」
「大体わかったわ。私は何をしたらいい?」
細かいことは抜き。
求められていることを確認することにした。
ニヤリと笑みを浮かべるリンダに、こちらも笑みを返す。
「レーテ、悪い顔してますよ」
「そう? 別にいつも通りよ。普段そうしてるように、好きに強気に生きるだけ」
「見習いたいな。よし、チームを紹介しよう。見覚えのあるやつがいると思うが、そうでなくてもいい奴ばかりだ」
彼女がそこまで言うなら、本当にそうなのだろう。
実際、周囲の視線にこちらを馬鹿にするようなものはない。
それだけ、彼女自身が信頼を勝ち取っており、そんな彼女のお墨付きというわけだ。
(期待には応えたいわね)
無言でカタリナと頷きあいつつ、陣地の中を進む。
以前より、石の力をあちこちに感じるような気がするのだった。




