JAD-207「同じ星に生きる」
もうすぐ夜明けの大自然。
うっすら明るくなってきた空間で、私たちが目撃したのは、地面をかじるドラゴン。
彼は、地面……そこに含まれる水晶等の鉱物を食事にしているようだ。
もちろん、目の前のドラゴンだけがそうなのかもしれないが。
道理で、ドラゴンに食べつくされたといった話を聞かないわけだ。
「焚火があるときじゃなくて、良かったわね」
「ええ、もしそのままなら見つかってましたね」
念のために、荷台のブリリヤントハートに滑り込み、そこから観察中。
下手に戦闘用まで起動させると、石の力で感知されそうだった。
「あの巨体で普通に食事をしてるとは思っていなかったけど……ふむ」
ドラゴンは、何回か地面をかじり、ぼりぼりと結晶を含む岩塊を食べている。
それだけでも驚くべき光景だ。
そのうえ、私には見える。
石の、星の力がドラゴンの体をめぐるのを。
(もしかして、ドラゴンやミュータントたちの一部は、ああいう役割を……やばっ!)
じっくり観察することで、何かの力が放出されてしまったのかもしれない。
ドラゴンが、ぎょろりとこちらを向いた。
明らかに、こちらを認識している。
「立つわ。武器は無し」
「は、はいっ」
こうなっては隠れるのも無理。
首を上げ、こちらを見るドラゴンに対し、こちらも立ち上がらせて向き合った。
まだ距離がある、そう思っていると、相手は飛翔した。
ふわりと、明らかにはばたきだけでは不可能な飛翔だ。
(今、石の力が動いた)
そう、ドラゴンは翼と、石の力の両方で飛翔しているのだ。
爬虫類の鋭さを帯びた顔、立派な体躯。
そして、力を感じる四肢。
何より、その瞳には……知性を感じた。
「距離150。もう目の前みたいなものですよ……レーテ」
「わかってる」
どちらにとっても、一息でゼロに出来そうな距離。
そこで向かいあうロボと竜。
そして私は、コックピットを開いた。
「レーテ!?」
「いいの。カタリナはここにいて」
ブリリヤントハートの腕をちょうどよく動かし、差し出すような状態に。
そして、心が感じるままに、機体の腰から外に出た。
落ちないように気を付けながら、機体の手のひらに。
「さすがに迫力ある姿ね……力もしっかり感じる」
つぶやきが、両者の間に溶ける。
ドラゴンがゆっくりと歩いてくるのを感じた。
思い返せば、ドラゴンとは別に敵対する理由はないのだ。
襲われればし返すし、邪魔であればどいてもらう、ただそれだけだ。
「初めまして。私は貴方を倒すつもりはないわ」
伝わるとも思えなかったけど、大きく声を出して話しかけた。
すると、予想外にもほどがある結果が産まれる。
『グルル……』
当然、人の言葉ではない。
しかし、ドラゴンは確かに頷いたのだ。
ただ動いたのではなく、頷いた!
言葉に、石の力が混じるのを意識しながら、さらに口を開く。
「よければ、人間とも争わないで済む方が良いとは思っているの。みんなにもこの辺りは攻め込まないように、言っておくわね」
ほかの人が見たら、どうにかしたのかと色々疑われそうな光景だ。
けれど、ドラゴンには伝わったらしい。
その瞳に、納得のようなものが浮かんだように感じた。
満足した私は、コックピットに戻る。
「機能停止するかと思いましたよ……」
「なあにそれ、ジョーク? もう……」
人間風に言うなら、心臓が止まりそうだったってとこだろう。
笑いながら操縦桿を握りなおしたところで、違和感。
「っ! 探査!」
「西に無人機の反応あり!」
「こんな場所にっ!」
思わず文句を口にしながら、ライフルを構えさせたところで、視界に光が走る。
ほかの誰でもない、ドラゴンが短くブレスを放ったのだ。
まるでライフルを撃ったかのような小さなブレス。
闇を引き裂くような光の弾丸が、まだ遠い場所にいる無人機を貫いたのを感じた。
「まだ何機かいますよ」
「ふうん。見せて見ろってとこかしらね」
ドラゴンは、モニターの向こう側でなぜかこちらを見つめていた。
その真意を探りつつ、こちらもライフルを構え、放つ。
ブレスのように光の弾丸が無人機に吸い込まれ、着弾。
その機能を停止させる。
「あ、飛んでいき……こっち見たまま待機してますよ?」
「ついてこいってことかしら……ドラゴンにとっても、無人機は敵だった。この辺が自然にあふれてるのは、そのせいもあるのね」
きっと探せば、あちこちに無人機の残骸が転がってるに違いない。
無人機たちのことをどうにかした後に、この星でどんな生態系が産まれるのか。
そんなことを考えてしまう光景だった。
夜明けの光を浴びながら、こういうのも伝えていかないとなと感じつつ、ついていく。




