JAD-200「墓標」
メテオブレイカー。
かつての人類が作り上げた、空からの来訪者である隕石を打ち落とすための迎撃兵器。
自立行動を可能とし、普段は地上の砦としても活動できる。
記録や記憶によれば、星中で両手で足りる程度は生産されたらしい。
現存しているのが何機かは、不明だ。
明確に稼働しているのは、私たちが出会った一機だけなのかもしれない。
「エネルギー反応はなし。ここまで近づいてもあっちみたいなお迎えはないですね」
「見ればわかる感じね。足の部分とか、完全に崩壊してるわ」
砦モードに戻ることすら、不可能になっていたのか。
まるで巨人が横たわるように、メテオブレイカーはその姿をさらしている。
もの悲しさに、思わず胸が痛くなった。
「争いきった感じというよりは、本当に役目を終えた感じかしら」
「いえ……力尽きた、ってことだと思いますよ。見てください」
言われて、メテオブレイカーの周囲を確認、そして納得した。
無数の無人機だろう残骸、そして人類側だろう金属片が転がっている。
最初はメテオブレイカーの破片や残骸かと思ったが、違ったのだ。
「何度も迎撃して、その間に付近では戦闘があって……まだこの辺りは石の力が枯渇してるのね」
「じっとしてるだけで、なんだか周囲に力が拡散していきそうです」
カタリナの予感は、正しい。
実際に、石の力を使おうとしてもどうも手ごたえが薄い。
なくはないのだけど、乾いている感じだ。
メテオブレイカーがどういう状況で倒れたのか、見えてきた感じだ。
「貴方は役目を、果たしきったのかしら?」
大きながれき、そこをまたぐように進む。
空を飛ぶ消耗が思ったより激しいと気が付いたのだ。
そうしてたどり着く、コア部分。
私たちの知るメテオブレイカーが、何色ものジルコニアを動力としていた場所。
そこは開かれ、ぽっかりと穴が開いていた。
「持ち出されたか、これが狙いだったか」
「今はもうわからないわね。でも、このままっていうのはさみしいわ」
これは同情だろうか?
あるいは、同じように作られただろう存在への感情かもしれない。
少なくとも、このままは嫌だなと思ったのだ。
謎の施設から持ち出し、装備したままの腕輪もうずく気がした。
感情のような何かに従い、使っていない石の中から5色の石を取り出す。
稼働しているメテオブレイカーが、ブリリヤントハート用に譲ってくれたジルコニアだ。
もう今は意味がないかもしれないけど……。
「墓標がわりってことで」
コアの穴に向け、石を落とす。
キラキラと光るそれが、人が何人も入れそうな場所へと転がる。
よく見ると、まだコア内部というか、壁には回路が残っている。
もしかしたら……そう思った時だ。
「レーテっ」
「ええ、わかってる」
すぐにブリリヤントハートを後退させる。
その理由は、石を入れたコアが閉じたからだ。
「まだ、動くのね」
本格的に動き出すのか、その役目を果たすのか、それはわからない。
だけど、息を吹き返したといわんばかりのその姿に、うれしくなった。
「再稼働や修復には年単位ですよ、きっと」
「それでもいいわ。この辺りの森はきっと、この子の敵にはならないと思う」
この子なんて呼ぶのが正しいかはわからないけど、そういうことにしておこう。
いつか語れることを祈って、その場を離れることにした。
メテオブレイカーと同じように、昔のことがわかる何かが見つかるかもしれない。
そう思ったら、見知らぬ土地へと向かうのが楽しみになってきた。
「人類は、再びこの星を開拓することになるんですね」
「そういうことね。それでいいんじゃないかしら? かつての文明は便利そうだけど、世界が狭くなった感じだわ。人には、ふさわしい距離というのか、そんな感じのがある気がする」
私も、弱いつもりはないけど、星の反対側には手が届かない。
できること、手が届くことをやるだけだ。
「なんだか、人恋しくなったわね……」
「一通り見たら、人の領域まで戻りましょうか?」
そんな提案に頷き、今は無人の自然へと向かうのだった。
向かう先は、データ上初期にこの星へと隕石が落ちた場所、だ。




