JAD-155「無茶ぶりの始まり」
「まるで冗談みたいな光景だわ」
「冗談であれば、どれだけよかったか」
案内された先、どこで稼げるかを知るための場所。
そこは思った以上に、激戦地だった。
ここから後方に、さらに街があるらしいけど、そこからできるだけの援軍が来ている状態。
それだけじゃなく、すでにいくつかの街は押し込まれているというのだ。
(マネーカードの決済メッセージに、限界みたいな言葉があったのよね)
「始まりは、西の砂漠地帯、その境界だった。小さな町が、砂漠からの何者かに襲撃され、消えた。かろうじて生き残った面々が情報を伝えて……の繰り返しだな。ほぼ毎回、同じような戦力でやってくる」
「いつ尽きるともわからない戦力による、波状攻撃、かあ……」
「どこかに拠点がありそうですよね」
カタリナの指摘に、男もうなずき地図をいくつか指さす。
山であったり、意味ありげな地形だったり。
「こちらでも、アイツらが資源を採取していそうな土地にあたりはつけている……が、なかなか厳しくてな」
「そりゃあ、そうよね。相手だって馬鹿じゃなさそうだわ」
戦力もそこに相応に集まってるってわけだ。
普通なら、ここでしり込みするところだけど……あいにく、私たちは普通じゃない。
「どうせいなかったようなもんだし、どこかに行ってみるわ」
「それはあんたらの自由だが、同じような奴がいるかもしれない。話ぐらいは聞いていくといい」
私たちみたいな無謀な連中が、そうそういるとは思えないけど、確かにその通り。
言い方を変えれば、打開策を探している人はいるだろう、となるけども。
色んな場所からの援軍や、後退してきたことで膨らんだ人員で、意外と混雑している。
この辺りが、防衛ラインとしてはぎりぎりというのは本当なんだろう。
地図情報をもらい、歩き出す。
「よぉ。少し、いいか?」
「お酒に付き合うのは難しいけど、何?」
「そんなんじゃねえさ。聞こえたんだが、自信がありそうな感じだな?」
話を聞くべく、歩き出した私たち。
そんな私たちにかけられた声の主は、若者。
立派な大人と呼ぶには若く、子供とはもう言えない。
「ずっと、旅してきたからね。大体のことはなんとかしてきたわ」
「そっか……俺たち、故郷を取り戻したいんだ」
変わった口調、感情の込められた短い言葉。
そこに込められた思いが、握られた拳に表れていた。
故郷と呼べるものが、たぶんないんだろう私と違う、熱い感情だ。
正直に言えば、ある種うらやましい。
「遠いの?」
「いや、すぐそこさ。つい2週間前までは、そこで暮らしてた」
「地図でいうと……なるほど。レーテ?」
さっきもらったばかりの地図で確認すると、確かに結構そばだ。
目と鼻の先とは言わないけど、一晩でやってきそうな距離。
「自分たちでほとんど何もしないことになるかもしれないけど、それでも?」
「なんだよそれ……そういうことかよ。相当の自信家だな、アンタ。俺はライアン」
最初は疑問だらけだった顔に、納得が広がる。
私が、ほとんど平らげることになっても、故郷を取り戻せるなら問題ないか、ということだ。
「ライフレーテ・ロマブナン、レーテでいいわ。この子はカタリナ。支援パイロットよ」
「じゃあ、さっそく戦力の確認と出発の準備をしましょう」
「さっすが。いつでもいいぜ」
少年以上青年未満なライアンたちに案内され、外へ。
機体に乗り込み、歩きの彼らについていく。
そして、見えてきた集団に内心驚いた。
とある空き地に集まっていた歩兵や車両、そして数機のJAM。
こちらは発掘が盛んなのか、こんなというと失礼だけど、若者でもJAMに乗っているようだ。
「ライアン、その2人は?」
「馬鹿に付き合ってくれるフリーのジュエリストだよ。すげえぜ、さっきの戦闘で砲台野郎たちをぶっ飛ばしたのはこの人だ」
どうやら、ライアンはさっきのに参加していたらしい。
彼はリーダー格なのか、集団に納得の気配が広がっていく。
「じゃあ、やるのか」
「おう。だめでも、ここに来る戦力は減らせるだろうさ」
軽口ながら、どこか悲痛な決意を感じる声。
だから、そんな彼の肩をぽんっとたたく。
「なんだよ?」
「ダメよ。私たちが参加するからには、成功させるわ。安心しなさい、私たち……強いから」
おどけて言えば、こちらの意図に気が付いたらしいライアンは、笑った。
(さあて、言ったからには……ね)
自分の中で、何かが鋭くなっていくのを感じる。
そのために作られたからか、そういうのが好きだからか。
一番しっくり来たのは、自分の手で誰かの笑顔が守れるなら、気持ちいい。
そんな言葉だった。




