JAD-133「出戻りのような何か」
草原と森、自然の中をひた走る。
大型輸送船の探索から町に戻り、リンダたちへと別れを告げた私たち。
十分な補給をして、向かう先はもうずいぶん前のようにも感じる地方。
砂嵐から商人の親子を助けたあの土地へだ。
「このレポート、何のために金庫にあったんでしょうね」
「場合によっては、輸送船を放棄した人間が、回収する予定だったのかもね」
行き当たりばったりというべきか、さまざまな手段を考慮しなければいけなかったのか。
当時の混乱ぶりは、どのぐらいだったのかは想像するしかない。
確かなのは、かつての技術は、ごく一部にしか継承されていない。
例えば今の人類に、一から工場を作り上げろというのは難しいだろう。
「……それが狙いかしら。エネルギー源さえあれば、技術の再開発はそこまで厄介ではないわ」
「? かつての技術を、ですか? どうなんでしょうね」
また、世界が滅びるのは嫌なのでは?なんてカタリナがつぶやく。
思ってもいなかった言葉、それでいて納得する言葉に、頷きを返す。
便利な世界は、確かに良い物だ。
水だって、今も地方ではそうなように、人力でくみ上げるなんてのは重労働だ。
石の力と言わず、楽ができるならその方が良い。
(その極地が、かつての文明、か)
便利で強すぎる力は、よくない物も呼び寄せた……いや。
もしかしたら、どこからか観察している存在が気が付ける明るさだった?
「ちょうどいいって、難しいわよね」
「全くですよ。前方に獣の集団あり」
事務的な報告に、トラックの正面に映像を映す。
遠くに、ひた走る猪のような獣たち。
「たまには保存食以外も食べたいわよね」
「気分的に、違いますね」
となれば話は早い。
後部の貨物部分へと移動し、乗り込む。
うつぶせに固定させたままなのだ。
普通の銃……では相手が吹き飛ぶので、凍らせよう。
腕だけを動かし、狙いを定める。
「大きい……自然を切り開くのを、少し考えてしまうわね」
凍らせる力を放ちつつ、立派な姿の獣に、思いを飛ばす。
かつてのように、人類が星全体に繁栄することの是非を。
相手が凍り付いたときには、その気持ちもどこかに消えた。
私一人でどうにかなることでもないし、ラインは決められないからだ。
「じゃあ回収して処理を……!?」
「何か空から! 鳥!?」
影がさしたかと思うと、巨体が舞い降りてきた。
そのまま、凍り付かせた獣のうちの一頭をつかみ取り、また舞い上がる。
その姿は、娯楽用映像記録にあるような巨鳥だった。
かつて空を飛んでいた飛行機のように、ゆうゆうと上空へ。
遠くに見える山に向かっているようだった。
「一頭は残ってるし、追いかけなくてもいいでしょう」
「人が暮らそうと思ったら、ああいうのも相手にしないといけないんですよね」
「そうね。まだ地上は良いわよ。見えるんだもの。海は全く不明だわ」
凍り付かせた獣を荷台に押し込み、再出発。
話すのは、ミュータントとも思える巨大な生き物たちのことだ。
合体するクラゲなんてのは、最たるもの。
海に繰り出せば、下手をすると見たこともない巨大な何かがいるかもしれない。
(それこそ、JAMを一飲みにするようなのがいるかもね)
考えたところで、背筋が寒くなった。
こういうのは、考えたり口にすると、その通りになるような気がしたからだ。
「私、別の大陸に行くときは、空を飛んでもらいます」
「あら、トラックは置いてけぼりね。仕方ないけど」
以前、メテオブレイカーからもらった衛星からの映像、それによる地図。
そこからわかることは、この星がいくつもの大陸を擁すること。
海が、6割ぐらいだということだ。
「もったいないですけど、しょうがないですね。今って飛行機の類、残ってるんでしょうか……」
「残っていても、乗りたいとは思えないわよ、きっと」
武装したJAMが飛ぶのならともかく、そうでないものが空を飛ぶのは大変だ。
飛行そのものもそうだけど、さっきの巨鳥やドラゴン的なものに見つかる。
(昔の飛行機も、案外石の、星の力を使った武装航空機、なんてものだったのかも?)
そんなことを思いながら、道をさらに進む。




