JAD-111「掘り出し物には厄がある・後」
「銃弾は……鋼鉄! こっちの装甲は破れません!」
「だからって撃たれ続けるのも……ねっ!」
建物跡からの銃撃は、おそらくはいわゆるマシンガン的な物。
それが複数個所、集中的に攻撃されている。
多少開けた場所を左右に動けば、後を追うように地面に火花が散る。
追尾性能はあまり高くないようだ。
周囲のがれきがさらに砕けていくあたり、生身では相手はしたくはない。
「マーキングっ! そこっ!」
モニターに、銃座がいくつも強調され、そこを撃ち抜く。
幸いにも、こちらの実体弾は効力を発揮するようだ。
細かい音に混じって、こちらの音が強く響く。
徐々に減る相手の攻撃、そして沈黙。
「片付いたかしら?」
「恐らく? 建物も含めて、金属の反応が多いのでなんとも……」
たぶん、自動制御の銃座たちだ。
スナイパータイプの銃座はないと……思いたい。
問題は、これがよくあることであれば、さすがに忠告ぐらいあっただろうということだ。
つまり、初めての状況。
(こんなのがよくあるなら、生身での探索は自殺行為よね?)
建物という障害物があちこちにあるといっても、いきなり撃たれればそれで終わりだ。
念のために、銃撃のあった方面からは影になる廃墟へと身を隠す。
「レーテ、解析映像できました」
「どれどれ……んん? 一部は射撃しながら、吹き飛んでるじゃない」
「そうなんです。無事なのもありますし、全部が全部じゃないですけど。それと、これ」
映像で見えたのは、見た目だけはぴかぴかの部品で出来た銃座だ。
となると、部品は新品に見えるのに、作りが甘いのがある?
明らかに、おかしい光景である。
「つい最近、整備されたか……生産されたか……工場はないのよね」
「そのはずです。ただ、崩壊前後の企業のことです。実験工場や、自社施設を守る戦力は自家生産してても不思議じゃないです」
頭が痛い話だけど、一切否定できなかった。
記憶にあるあれこれでも、文明崩壊前の企業は特にパワフルだ。
町全体が自社のオフィスだから、色々な法が適用されません、みたいなことはよくあった。
「一見すると普通の町だけど、そういうのが残ってたって方向で動いた方がよさそうね」
「そのようです。行きますか?」
うなずき、地面を滑るようにして動き出す。
空を飛ぶための力を、ほぼ横にして超低空を飛んでいるのだ。
向かう先は、建物の中。
状況的に依頼の目標、探し人は中のような気がするのだ。
これがその人の仕業というわけじゃなく、きっかけだと思う。
「誘導装置は生きてるみたいです。レーザーあたりの照射がありますね」
「実害がないなら放っておきましょう。探索優先よ」
不快ではあるけれど、撃たれないならそれはそれで。
入口だっただろう場所をくぐると、そこにはがれきの山と通路。
「頑張ってどかしましたって感じね」
「この辺は、めぼしいものはないですね。大型の物は回収済みみたいです」
実際、残ってるのは本当にただのがれきといった感じだ。
商業施設だったのか、妙に広い空間がいくつもあるように見える。
そこにあっただろう棚やらなんやらは、持ち出されている。
「ここまでくると、少しわかるわね。中央、何か生きてる」
「こちらでも確認しました。施設の規模としては、少し反応が強いですね。この感じだと明らかに余剰電力ですよ」
つまり、その余分だろう分の電力を使う何かがある。
警戒しつつ進めば、モニターに古ぼけたトラックが見えてきた。
ホコリが積もっていないところを見るとつい最近、おそらく探し人だ。
「生体反応を探りましょう。ミュータントは……たぶんいないか、少ないだろうし」
「了解。センサーを切り替えます」
そのまま、崩れかけた階段を踏まずに、機体を浮かせて2階へ。
ここも広く、外から車両で乗り入れられそうな空間が広がっていた。
私が撃ち抜いた銃座の残骸が、ちょうど外周に見える。
「どこから銃座が来たのか……あの場所、明かりがって」
すぐにモニターが拡大される。
そこは警備関係の部屋なんだろうか?
明かりのついた部屋の中に、人がいる。
ただし、何かに拘束された状態で。
「叫んでますね。マイク切り替えます」
『た、助けてくれ! 防衛の命令をってずっと繰り返してるんだ! 捕まっている!』
いまいち前後がわからないけど、システムが人間の命令を欲しているようだ。
以前にもあったけど、ずっと命令がないとシステムには異常が出ることがある。
たまたま、あの男性がひょんなことから選ばれてしまった……だと思う。
豪華そうな椅子に、拘束されているのが見えた。
「どうします?」
「どうもこうもないわ。どうせ相手の攻撃は大したことないもの。強引につっこむ!」
話してる間に、どこからか銃座が動く荷台のようなものに積まれ、運ばれてきた。
そして、射撃。建物の中に、甲高い音がこだまし始めた。
銃撃を受けつつ、突進する。
一応、男性に流れ弾がいかないように石の力で壁を作っておく。
「頭を下げてなさい!」
言って、男性のいる場所とは少し横の壁をぶち破る。
そのまま腕を動かして、男性の拘束されている椅子ごと、引きちぎった。
『ききき、勤務時間はまだだだだあります。交代人員が来るまで施設の維持をををををを』
「おあいにく、退職届はとっくに提出済みみたいよ! 拳を石で覆って脱出!」
「了解!」
隙間がないから真っ暗だろうが、銃撃が中に来ることもない。
もうここには用がないので、すぐに後退。
銃撃がどんどん遠ざかり、そのまま外に飛び出した。
建物の2階としてはやや高いけれど、問題なく着地できた。
「トラックはあきらめてもらって、ひとまず帰りましょうかね」
「同意です。うっかりが怖いですよ、護衛的に」
男性も、岩の梱包から解放してあげないといけない。
建物から距離を取ったところで、力を解除して男性を解放するつもりだった。
さて、もう少し詳しい事情を聞けるといいのだけど……。
椅子に固定されたままで、うなだれている男性を見るに……あまりいい話にはなりそうになかった。




