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 山岳都市クライス

 ヴァルマルクの街からしばらく北上し、ディバト川に沿って、進むこと徒歩数日はかかるであろう場所にある街である。小高い山の上に築かれた、規模としてはラムドラと同程度の街。小高い山の上にある為、モンスターの襲撃があったとしてもすぐに迎撃ができるような監視所が周囲にあり、周辺に生い茂った森林はモンスターの行動を阻害する。街を囲むように幾重にも建てられた城壁は高く、モンスターの街内部への侵入は許さないような造りとなっている。それだけ強固・強靭な守りを持っている街であるので当たり前なのだが、街周辺のモンスターは、ラムドラとは比較にならないほど強く、その分落とすゴールドも大きい。


 俺はなぜ、ビィル・ナ・ヴァルブリッジを渡り、その足でヴァルマルクの街に入らずに、野宿だのなんだの数日かけてまで山岳都市クライスに来ているのか。



 魔族アムデを仕留めた後、ヴァルエリムの衛兵達に捕まらないように、鞄に残っていたけむり玉をばら撒きながら、なんとか衛兵達から逃げ伸びることに成功した。彼らの目的は監視塔の確保であろうから、目的がよく分からない女一人を血眼になって追いかけるような事はなかったようだ。 

 

 ヴァルマルクへと向かっている時に、頭に浮かんだ簡単な疑問である。


 ……このままヴァルマルクの街へ入ったら色々とまずいのでは?


 監視塔周辺において魔族を倒す為に暴れまわった事はともかく、ヴァルエリムの関所内でもひと暴れしてきたわけで、普通に考えれば、公務執行妨害、器物損壊罪、住居侵入罪等、衛兵に捕まると確実に牢屋にいれられそうな案件が色々ある。このまま何食わぬ顔でヴァルマルクの街へ侵入できたとしても、橋の奪還に来たヴァルエリムの衛兵達には自分の顔は割れてしまっているので、見つかると非常にまずい。種族【エルフ】ということも鑑みて、近くの街でまごまごしていると即衛兵達に見つかって捕まってしまうかもしれない。橋に生息していたモンスターがいなくなったことで、ディバト川を越えた街同士の連絡や交流が再開してしまう為、早いうちに遠方の街へ行くしかないという結論になった。


 ……のんびりヴァルマルク観光などとできるわけもないのだ。

 

 ヴァルマルクへは立ち入らず、急遽、次の目的地である山岳都市クライスへと進路を変えることにしたのだ。

 

 なんとかヴァルマルクの関所を通らずにクライスへと向かいたかった。橋の上から川を見下ろしてみれば、河岸に沿って設けられた堤防から流れる川まで広がる幅二十メートル程の河川敷が続いており、そこに降りることができれば、人に見つからずにクライスへと向かうことができるようだ。


 ヴァルマルクの関所近くには、河川敷に降りるような階段や梯子などはなかった。橋から河川敷までの高さは十五メートルほどだろうか。先ほどの監視塔から叩き落された事を考えれば、このまま飛び降りても問題ないかもしれない。


 ……いや、やめよう。飛び降りてまた気絶してたら目も当てられない。


 自分自身でも訳の分からぬ確認をしてから、ヴァルエリムの街で侵入・脱出用に購入しておいたロープを橋の縁に引っ掛け、ロープをつたってディバト川の河川敷に降りる。俺にしては、こんな時の為にきちんと準備ができていてびっくりしている。これで街に侵入せずとも、河岸に沿って北上していけば、数日でクライスに着くことができる。少しばかり強行軍であるが、仕方がなかったのだ。



 山岳都市クライスの宿屋の食堂で、パンと温かなミルクをいただきながら、周囲の話に聞き耳を立てる。沢山の人の話し声が聞こえてくるが、ビィル・ナ・ヴァルブリッジの魔族が討伐されたという話や橋が開通したという話は、今のところ聞こえてはこない。橋の開通はかなりの重大ニュースだ。今まで魔族にいいようにやられていたであろう人間種にとっては、久々の明るいニュース。号外が飛び交うレベルだと思うのだが、そんな話は微塵も聞こえてこない。宿屋の主人にもそれとなく話を聞いてみたが、そのような話は出てこなかった。まだヴァルエリムからの伝令が届いていないようなので、しばらくはここでのんびりできそうだ。

 

 食事を済ませると、自分の部屋へと戻り、白いキルトの上からベッドへと倒れ込むと、木の軋んだ音がした。魔族アムデとの戦いからずっと、野宿と歩き詰めでなかなか気が休まらなかった。追われるものの心境とでもいうのであろうか。心穏やかに眠れることがこんなに幸せだと感じたことはなかったのである。


 宿屋で支払った金額は今までで一番高い。

 ゴールドもそれほど残ってはいなかったが、一泊はできたのでよしとする。

 悲しいかな、明日からは宿屋に泊まる為の金策の日々である。

 明日のことをうつらうつらと考えながら、いつのまにか意識がここではない何処かへと飛んでいった。


~~

~~~


 次の日の朝、持っている武器防具の手入れを行う。コンポジットボウやぎんの短剣、ヴァルエリムの衛兵隊長からもらって残った二十本近くの矢など、仕事道具を何度も確認して、最後にフード付きのマントを羽織る。気持ちを切り替えるつもりで大きく深呼吸をした後、部屋の扉を勢いよく開けた。



 そう。金策である。

 BCOにおいて、お金を大量に集める方法はいくつかあるが、誰にでも簡単にできてかつオーソドックスな方法は、やはりひたすらフィールドモンスターを狩ってゴールドを入手することである。また、狩ったモンスターの素材やアイテムを売りさばくことで、さらに多くのゴールドを入手することができる。

 

 山岳都市クライスくんだりまでやってきたのは、現状最も効率よくゴールドを稼ぎ、モンスターの素材を集めることのできる場所が、この近くにあるからである!


 なんてことはない。異世界だろうと、ゲームだろうと、結局ゴールドを集める為にやることは、変わらないのである!

 


 クライスの街の北東方向、少し離れた所にある、大きな苔むした木々が鬱蒼と生い茂っている場所において、藪の中にある獣道を歩いている。豊かな木々の香りと、遠くの木のすれる音が聞こえたかと思えば、時折ばたばたという鳥の羽ばたきのような音が聞こえた。

 クライスの街から少し離れたこの周辺には、集団で動いているモンスターは少なく、一対一の状況になりやすい。その分モンスターのレベルは高いのだが、強いとはいってもドラゴンゾンビほどでもない為、一人でも対処できる相手ばかりだ。何よりゴールドを落とす量が今までのフィールドモンスターよりも桁違いに多い為、今後の為にもここで大量のゴールドを集めておきたいのである。


 できればモンスターのポップポイントをいくつか見つけて、そこを巡回するだけでモンスターを見つけられるようにして、機械的に倒してゴールド集めをしたい……できるだけ楽がしたい……などと考えながら木々の合間にある獣道を進んでいると、森には似つかわしくないような、騒がしい音が聞こえてきた。


 どうやらこの森の中で、誰かが戦っているらしい。

 ……まあ、ゲーム中でも人気の狩り場だったからね。人がいてもしょうがないね。



 息を潜めながら近くの藪をかき分け、音の聞こえてくる方向へと様子を伺うと、大きなモンスターに対して武器を構えた四人組が戦っているのが見えた。



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