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 空を飛ぶ魔族。


 空を飛ぶモンスターに対抗するには、魔法、弓矢等の攻撃手段を用いるのがセオリーだ。

 ボスモンスターに挑む場合、普通は何人かでパーティを組むので、誰かが空中まで届くような攻撃魔法を放ったり、【アーチャー】をパーティに加えて、弓矢で遠距離攻撃をしたりする為、大抵何とかなる。まあ、モンスターもずっと空を飛んでいるわけでもないので、地上に降りている時に、パーティの火力職総出でダメージを与えることで倒す、というのが一般的な攻略方法であろう。

 

 ……パーティ……仲間か……

 

 私と一緒に、あの警備ガチガチに固められた関所を抜けて、監視塔にいる魔族を倒そうよ!

 などど誘って乗ってくれる【魔導士】や【アーチャー】がいるかな……いないよな……

 

 街の人々の魔族への恐怖心はかなり強い。この三日間の情報収集の結果だが、どうも数年前に街の衛兵を集めて、橋奪還の為の討伐隊を組織して、監視塔に潜む魔族に挑んだようだ。このヴァルエリムの街と橋の反対側の街、ヴァルマルクの部隊との共同作戦。参加人数は500人近くにものぼることとなった。橋奪還の為に、街の双方から部隊を向かわせ、一気に鎮圧する……はずだったようだが、今の現状を見れば、残念ながらその作戦は失敗に終わったことがわかる。かなりの死傷者を出し、街の防衛戦力は著しく低下、モンスターがその後追撃をしてきても対処できるように街の警備や衛兵を出来る限り増員、強化、そして今に至る。


 ……遠距離攻撃魔法が使えないのであれば、現状弓矢を用いてしか空を飛ぶ魔族への対抗手段がない……


 武器種【弓】

 弓はしなやかな竹や木のような物に弦をかけ、その弾力を利用して矢を飛ばす武器。もちろん、弓だけでは攻撃することができず、ゲーム内でも必ず矢が必要になる武器だ。装備できる職業は、弓をメイン武器とする【アーチャー】、若干能力が劣るがそつなくこなせる【盗賊】、【ナイト】も装備職として入っている。そして、ついでと言わんばかりの【魔導士】や【僧侶】等。【魔導士】や【僧侶】は、攻撃力が低いので微々たるダメージしか与えられないのだが、遠距離から相手のMPを吸収する弓スキルなどがあるので、それがメインでの使用方法となるのだろうか。


 遠距離から攻撃のできる武器。防御力の低いエルフの【魔導士】であれば、これほどデメリットをカバーできる装備はない。が、ラムドラの街では弓を選ばずに【ぎんの短剣】を選んだ。これにはいくつか理由がある。


 ひとつめ。そもそも弓のスキルを三つしかとっていないこと。レベルカンスト状態でも、選べるスキルには限りがある。スキルポイントの割りを喰ったのが弓である。三つとも便利なスキルではあるが、激闘を制するほどの火力が出るスキルではない。強敵を相手にする場合には選択肢から外れてしまうのだ。


 ふたつめ。はっきりいって俺個人は弓なんか使ったことがない。どうやって矢を射るのか。買ったはいいが、使えなかったら大変なのである。ゲーム内のキャラクター『セルビィ』になっているので、矢を射る時になればなんとか体が動くのだろうか。【素手】や【短剣】でも振り回せば何とかなったから、なんとかなるのか……なぁ。

 

 そして三つめ。これがすべてにおいて重要である。


 そう! 矢に金が掛かるのである!


 普通の矢一本の値段は10ゴールド。属性矢などもゲーム終盤には登場するが、この街では買えないので割愛。

 それほどではないと思うだろう。普通のゲームプレイヤーなら、常識的な考えだ。


 矢は、弓につがえ、放てば消える。モンスターに当たっても消える。地面にあたっても消える。的を外して変なとこに飛んで行っても消える。消えるのだ!


 10ゴールドが! 即! 消える!


 フィールドモンスター程度であれば、それほど問題ではない。だが、俺の倒すべき相手は、強いボスモンスターである。

 

 ボスモンスターは当然HPが他のモンスターに比べて異様に高い。

 果たして矢が何本いるのかということだ。


 俺は知っている。かつてのチームメンバーの【アーチャー】がボスモンスターに挑む際、常に普通の矢999本、各属性矢999本を持ち歩いていたことを。なんだそれは。持ちすぎだろ。矢がなくなれば、DPSと攻撃手段が著しく限られてしまう。それほどまでに矢への依存度が高い武器種が【弓】なのだ。

 

 今度の魔族はどれだけのHPがあるのだろう。矢は50本あれば倒せる? 100本?

 とにかく、魔族を倒せるだけ持って行かなくてはならない。

 金欠気味の人間には、これほど金に依存するダメージソースの確保は、ゲーム序盤の選択肢から外れるのも当然なのだ。



 弓矢を購入したいと相談した武器屋のおばちゃんに勧められたのが、この【コンポジットボウ】である。ベースは木だが、強度と威力を増す為に、動物の骨や鉄や銅の金属板といった複数の材料で補強してあるものだ。サイズは弓としては小さめであり、ショートボウと同じサイズだろうか。あまり大きくても取り回しに困るのでこれくらいがちょうどいいかな。


 そして、矢である。


 矢は矢筒と共に購入する。念には念を入れて100本である。くっ! 撃ったら消えるものに1000ゴールド! 失いたくない! でも買わないと弓が使えない! 貧乏性の、金欠の自分が憎い!


 矢100本は結構な量である。とりあえずすぐに使うわけではないので、弓と矢を紐で縛り、背中に背負うような形で持ち運ぶ。インベントリ機能がないので、このようなものも自分で持ち運ばなければならない。100本でもかなりの量である。矢を大量に持ち運ぶ【アーチャー】の皆さんは、最終的に樽でも背負う羽目になるんじゃないのか。

 

 ……鞄も含めてかなり動きにくい。持ち物がごちゃごちゃしてきた。


「あんた弓を使うんだろ? だったらもうちょっと髪をなんとかしたほうがいいわね」

 武器屋のおばちゃんがこちらを見ながら呟く。考えてもいない言葉が飛んできた。弓を使うと髪が引っかかって邪魔になるのか。確かにこの異世界に来てからもう一月ほど経つだろう、セミロングの髪も伸びており、少々邪魔と思えるほどになってきた。


「ちょっとまってな。おばちゃんが昔使ってた髪留めをあげるから。そんなんじゃ凛々しい弓使いエルフの名折れだからね」

 そういって奥に引き返していく武器屋のおばちゃん。

 ……はっ! この流れはなんかあれだぞ! よくない!


「ほら! 私が若い頃使ってた髪留めあったよ。可愛いだろー!」

 ほら来た! なんだそのきらきらしたリボン付きのやつ! さっきいった凛々しい弓使いエルフの欠片も感じないやつ!


「私がまとめてあげるよ。ほら。……まったく……髪はこんなに綺麗なのに……ちゃんと手入れしないとダメだよ……女の子なんだから……はい! できた! 元気いっぱいポニーテール!」

 髪を後ろで結んで、弓を射る時に邪魔にならないようにしてくれたようだ。少々目立つ髪留めのリボンを除けばまぁ……まあね。ポニーテールはありかな。



~~



 空には分厚い雲が広がっており、月は見えないほど、俺の周りは暗闇に落ちている。防護壁の上で巡回している衛兵の灯している松明の光が、街を照らしている。


 黒いマントを頭に被り、関所の様子を人目のつかない路地裏から窺う。正面の大扉には衛兵が二人、その周辺も、定期的に何度も衛兵が見回っているようだ。


 ヴィル・ナ・ヴァルブリッジ。

 この橋を渡るには、この関所をうまく潜り抜けて、中央にある監視塔まで走り抜けなければならない。さすがに正面の大扉を堂々と抜けることはできないので、関所内にある勝手口のような扉から橋中央へ向かって侵入する必要がある。衛兵が出入りしているとみられる扉から関所内部に入り、橋の中心である監視塔へと向かうのだ。

 

 しばらく監視していたことで、衛兵の周回ルートと到着時間は大体わかった。橋の中心へと抜けるルートは、ゲームのプレイ時と同じ建物の構造であろうから、通路を間違えなければ問題なくたどり着けるだろう。後は、関所内部にいるであろう衛兵に遭遇しないことを祈るだけだ。


 関所内部へとつながる扉の草むらに移動して、衛兵が離れるタイミングを窺う。背中の荷物をもう一度紐で、きつめに体に縛りつける。潜入の際に必要となるであろうアイテムはある程度仕入れてきた。弓矢も背負っている。しかし、荷物が多い。本当に無限に投げ込めるインベントリ機能が欲しい。切実に。こんなに荷物を背負って行う侵入ミッションとか、勘弁してほしい。


 扉周辺に人の気配がしなくなったことを確認して、扉へと駆け寄る。扉を静かに開け、関所内部に衛兵がいないかを確認する。よし。近くに衛兵の姿は見えない。

 遠くで衛兵の足音が響いて聞こえてくるが、近くではないようだ。体を低くして、忍び足でゆっくりと目的である橋への侵入口を目指す。ゲームでもよくある侵入ミッションだ。人目につかないように移動すれば、問題なく成功する。みつからないように――


「おい! そこでなにをしている!」



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