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 パッシ村からそれほど遠くない場所に、ヴァルエリムの街がある。

 ラムドラの街と同程度の大きさ、しかし、住人の数は二倍近くはいるであろう密度である。

 

 このヴァルエリムの街に滞在して、既に三日目の朝だ。


 ヴァルエリムの街

 異世界に来て、今まで見た街や村の中でも一番人通りが多い街だ。大きな荷物を運んでいる荷馬車や商人も多い。宿屋や武器屋、防具屋などといった施設は一通り揃っており、夜もランプが煌々とついて、眠ることを知らないような明るい街だ。

 

 街の外周には人の背丈の倍はありそうな、石造りの強固な防護壁があり、街全体を囲っている。今までの村や街とは違い、多くの衛兵が、槍や盾を手に街の中を警備している。防護壁の上には、街に近づくモンスターがいないかどうか監視しているであろう、衛兵の姿も見える。

 

 人通りの多い理由の一つ、この街には衛兵が溢れているのだ。

 

 その理由は、すぐそばを流れるディバト川の上に架かる、ビィル・ナ・ヴァルブリッジと呼ばれる、ビィルガリア大陸最大規模の巨大な橋にある。ディバト川を渡る唯一の方法といってもよい橋である。もしもこの橋が無ければ、橋の向こうの街や土地との交流が非常に面倒なこととなる。


 ディバト川

 ビィルガリア大陸を二分する大きな川である。その川幅はとても広く、流れも穏やかに見えるのだが、船などで渡るには、川から飛び出してくるモンスターに襲われる為、なかなかに船舶の行き来ができない。舟も大きなものを用意しないとダメなようで、このヴァルエリムの街では、今のところそこまで手が回っていないようだ。

 

 王都グランドリオへの旅路は、このビィル・ナ・ヴァルブリッジを渡ることで格段に速くなる。とっとと魔神マガラツォを倒して元の世界に帰りたい俺としては、ここを今のうちに渡っておいて、レベルの高いモンスターを狩ってゴールドを集めたいところなのだが、そう簡単にいかない理由が二つあった。


 ひとつは魔族。

 

 橋の中央にある監視塔には、プレイヤーの行く手を遮るモンスターと魔族が駐留しているのだ。これは、ゲームの時からそうで、ここに強いボスモンスターを配置することで、レベルの低いプレイヤーを、簡単に高レベルのモンスターが現れるフィールドへ行かせないようにするという、回り道をさせるというアレである。

 

 もしもこの橋を渡らずに、王都グランドリオを目指す場合は、ここから遥か南東にあるヴァルデジャン王国まで向かった後に船に乗り、南の海を股にかけ、港町ルーペンから北上しなければならないという、金も時間もかかる長旅になってしまう。


 もう一つの方法は、ディバト川をひたすら上流に向かって登っていき、川の流れが比較的緩やかで、川幅が最も狭い場所から、舟を使って川を渡る方法。こちらはお金はそれほどかからないが、時間はヴァルデジャン王国へ向かうよりも遥かにかかるうえ、極寒の山々をいくつか越えなければならないこと。

 

 ゲームの時は、魔族を倒して橋を渡るか、回り道であるこの二つ以外の方法でしか、このディバト川を渡る方法がなかったはずなので、異世界だろうが無理して渡ることは不可能なんじゃないかな。たぶん。


 あまり時間をかけていられない。なぜなら、手元にゴールドがそんなにないからだ。この街周辺のフィールドモンスターは、街の周囲を見回っている衛兵達にことごとく討伐されている。現状今後の収入がほとんどない。街を離れたところまでいけば、討伐されていないモンスターはいるが、街に戻ってくるまでに時間がかかりすぎる。

 

 速く渡って高レベルフィールドモンスターのゴールド収入を得たい。切実な願望である。

 

 やはり、多少強引でもボスである魔族を倒して強行突破するしかない。

 

 ゲームの時でも、序盤で無駄にレベリングしたパーティや、先にクリアした高レベルのプレイヤーを引き連れて、回り道をせずに強行突破するプレイヤーも多かった。自由なMMOだった。ここのボスは一度倒すとポップしないので、倒した後の橋はモンスターも出現せずに人が通れるようになり、移動が楽になるというようなものだ。しかし、高レベルの仲間に助けてもらって突破しても、その先のフィールドモンスターが強すぎて、すぐに戻ってくるプレイヤーもいたのは事実。楽せずに頑張ってレベルを上げようねってことだね。今の俺には当てはまらないので、すぐにディバト川を渡りたい。

 

 強行突破にこだわっているのは、実はここの魔族、それほど強くはないからだ。闇森の沼地で戦ったドラゴンゾンビ三体よりもレベルが低く、今のままでも対処できる攻撃しかしてこない。それでも序盤中盤のパーティには、かなり大きな壁となっていた。厄介なのは、ここの魔族は頻繁に空を飛ぶこと。一人パーティの魔法すら使えない俺にとって、空を飛ばれると対処方法があまりない。


 魔族の他にある、もうひとつの問題は、この街の、ガチガチに固められた監視体制である。


 衛兵たちは街の外、モンスターの現れるフィールドに向けて目を光らせているが、もっともその人数を割いているのは、ビィル・ナ・ヴァルブリッジの監視塔に向けてであった。街の周辺を囲う防護壁よりも大きな関所のような建物が、橋の前に建てられており、朝昼晩と常に衛兵が十数人体制で見回り、監視を行っている。

 

 街についてからずっと、どこかに橋へ侵入できるルートはないかと探しているのだが、衛兵の数が多く、監視の目が凄まじい。橋からモンスターの侵入がないかを目を皿のようにして見張っているのだろうが、これではこちらから橋に侵入しようとしてもすぐにばれてしまう。ちょっと頑張りすぎだよ。


  相手は一匹で街を壊滅させることもできるとされている魔族。それが目と鼻の先に駐留しているということは、これだけの監視体制をとられても仕方のないことなのかもしれない。この異世界の住人達には、いつ襲い掛かってくるかもわからない、まさに恐怖の存在だろう。

 

 魔族も魔族で、なにもない川の上でどうやって生活しているのか気になる。川釣りでもしてるのかな。ゲームシステムがそのままスライドされていて、配置された状態から動けないままだったりしたら、ちょっと間抜けだ。


 この街に滞在して三日目の朝である。街の大体の状況はつかめてきた。どうやって関所を突破し、魔族を倒して、向こう岸にあるヴァルマルクの街にたどり着くかを考えるのだ。


 ……強行突破しかなくない!?



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