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※グロ・不快表現が続きます。耐性無い方はご注意下さい。



  一対一でも怪しいのに、一対二、しかもボスモンスターとの連戦、短剣縛りとはゲームの時でも勝てるかどうか怪しいものだ。ドラゴンゾンビとの距離が離れている今のうちに、鞄の中から回復薬を取り出しビンに口をつける。ビンにちらっとヒビが入っているのがわかる。……転がり過ぎたか。


 ――ギャオオオオ!


 こちらが回復薬を飲み終わると同時に、一体のドラゴンゾンビが突進してくる。もう一体は、骨がむき出しになっている羽根を羽ばたかせ、沼地から抜け出して、空中に留まっている。骨だけでも飛べるんですね。不思議。突進してきたほうのドラゴンゾンビを回避し、その横腹に【キャンセルブロウ】を打ち込もうとし――


 空中に浮かんでいるドラゴンゾンビから放たれるポイズンバレットを、スキルをうつのをやめて回避する。突進してきたドラゴンゾンビも足を地面に下ろし、首をこちらに向けて口から何かを吐きだそうとしている。これはいけない。どちらかの動きを封じないと、攻撃するタイミングが掴めない。まずは近くにいる、この小さいほうのドラゴンゾンビから動きを止める! 先ほどと同じように、ドラゴンブレスを耐えてからスキルを――


 吐き出されたブレスは、先ほどの個体のドラゴンブレスとは違った。辺り一面を凍らせるほどの、氷雪が交じったようなブレスだ。


 ――こいつの生前はフロストドラゴンであろう。他のドラゴンよりも体格は一回り小さく、通常のドラゴンとは違い氷のブレスを吐き、皮膚や鱗は青白く、吹雪の中を鱗を輝かせて飛び回る姿はおそらく壮観であったあろう。ゾンビとなっていては、その綺麗な鱗も見る影もなく、元のドラゴンと体の大きさくらいしか見分けがつかなくなってしまっている。


 なんとかブレスを耐え切り、足を動かそうとするが、まるで地面に張り付いたように動かない。腕も寒さで小刻みに震えている。辺り一面には、きらきらと氷の結晶が輝く。全身が凍るようなことにはならなかったが、寒さによって体の動きが鈍っている。これでは思った通りに回避行動がとれない。どうにか足を引きずるように動かして逃げようとしたときに、骨の尻尾が横から襲ってきて衝撃で吹き飛ばされる。腕で防御はできたが、全身はまた地面を転がる。何とか体勢を立て直そうと顔を上げた時に、ポイズンバレットが眼前に迫っているのがわかった。すぐに横跳びをしてそれを回避する。が、即座にフロストドラゴンゾンビのほうから、続けて氷のブレスが吐き出される。


 氷のブレス、ポイズンバレット、突進、ポイズンバレット、氷のブレス、ポイズンバレット、突進……


 流れるように、まるで二体で示し合わせたかのように攻撃を交互に放ってくる。こちらも回避行動がやっとで、短剣のスキルを叩き込める状態ではない。時々突進してくるフロストドラゴンゾンビはともかく、もう一体のドラゴンゾンビは悠々と空を飛びながら、ポイズンバレットを俺目掛けて撃ち込んでくる。隙が無い。――仕方がない。結局ダメージ覚悟の接近攻撃でしか、この二体も倒せそうにない。動きが制限される氷のブレスではなく、相手の突進にタイミングを合わせようとする。


 ――ギャオオオオ!


 フロストドラゴンゾンビがこちらに向かって突進してくる。来い! 回避はせずに、短剣で衝撃を受け止めるように構えて、勢いのある相手の体当たりを正面から受ける。体に受けた衝撃は重い。ぐううっ! 押し込まれ、小さく吹き飛ばされるような形で、後ろに生えている木の幹に背中が叩きつけられる。がっ! 背中に衝撃が走るが、今、目の前にはフロストドラゴンゾンビの顔がある! 別個体のポイズンバレットは、フロストドラゴンゾンビが射線上に入っており撃って来れない。ここしかない! 短剣を振り上げ、【ヘビィスラッシュ】を頭部に叩き込む。骨の砕ける音。続けて【スリープダガー】を、即座に短剣を反転させて顎に叩き込む。このスキルで睡眠状態になってくれれば一対一に持ち込める! 


 ――ギャオオオオ!


 無理! 叫びと共に相手の口から冷気が漏れているのが分かる。しかし今、この距離、この位置、チャンスを逃すわけにはいかない。【キャンセルブロウ】を続けて叩き込む。冷気の溜まっていた口が呻き声を上げ動きを止める。打ち込めるうちに放つ【乱れ突き】相手の少ない肉を剣撃が抉る。フロストドラゴンゾンビは顔面に何発ももらった事で苦しがっているようだ。顔を庇うように身をよじり、距離を取ろうとしている。出来ればもう一撃! スキルのクールタイムよ間に合ってくれ! 【ヘビィスラッシュ】を頭の中に念仏のごとく唱えながら、逃げるフロストドラゴンゾンビの首を追いかける。――なにかが来る。直感のようなものが働く。追うのをやめ、もう一体のドラゴンゾンビを目で確認する。こちらに向かって口から炎を吐き出した。


 ――ドラゴンブレス!

 

 辺り一面を炎が包み込む。目の前にいるフロストドラゴンゾンビを巻き込んで。正気か。フロストドラゴンの弱点属性は炎。あれだけチームワークが良さそうに見えたのに。俺を仕留めるつもりで放ったのだろうが、巻き込むように仲間の弱点属性の攻撃を放つとは。ゾンビに仲間意識があるのかどうかわからないが、裏切りですな。フロストドラゴンゾンビが甲高い叫び声をあげている。苦しいのだろうか。こちらも炎のダメージを受けていて熱いのだが、これは幸いだ。一気に仕留める。炎の中を駆け、もがき苦しむフロストドラゴンゾンビの近くへ走る。クールタイムの終わった【ヘビィスラッシュ】を首側面へと下から切り上げるように叩き込む。炎の中で肉の焼ける臭いがする。痛みと衝撃でさらに叫び声が大きくなる。


 ――恨むならお前を後ろから撃ったあのドラゴンゾンビを恨むんだな。

 苦しみから逃げるように首を下げてきたフロストドラゴンゾンビの顔面に【乱れ突き】を放つ。一突き、二突き、三突きが終わった後に大きく真横に切り抜く。フロストドラゴンゾンビが大きな断末魔を上げる。首を大きく上にあげ、叫びながら動きを止めた。


 仕留めた。フロストドラゴンゾンビの体が、足もとから光になって消えていく。消えた体の位置に留まっていた光が、ゴールドに変わって地面に落ちると同時に、金属音が辺りに響いた。

 

 まずひとつ。


 左手を鞄に突っ込み、薬草を取り出して口に放り込む。できるだけ目を離さぬようにもう一体のドラゴンゾンビを睨む。悠々と飛んでいた体を、ドシンと地面に下ろす。四つん這いのまま、ドラゴンゾンビは大きく首を上げて咆哮する。


 ――ギャオオオオオオ!


 今までで一番大きい叫び声だ。その大きさに思わず耳を手で塞いでしまう。まるで仲間の死を悲しむように叫んでいる。いや。死んだのはあんたが原因の半分でしょうが。ん? ゾンビが死ぬってなんだよ。咆哮が止むと同時に、大きく息を吸う音が聞こえた。


 ――ドラゴンブレス!


 炎の中を相手に向かって駆ける。この短時間に二体ものドラゴンゾンビを相手にしてきたのだ。相手の攻撃パターンは分かってきている。一対一ならばもうそんなに苦戦はしないぞ。短剣を握る手に力を込めて【ヘビィスラッシュ】を相手の左肩に打ち込む。流れるように次のスキル【キャンセルブロウ】相手の動きが止まっている今のうちに【乱れ突き】打てるスキルを次々と放つ。痛みからかドラゴンゾンビがこちらを睨む。すぐに後ろへ跳躍して距離を取り、相手の出方を伺う。長い尻尾がこちらを狙って左右から襲ってくるが、よく見ていれば十分回避できる速さだ。ポイズンバレットにおいては弾速も見極めがついてきた。相手の攻撃を素早く躱す為、左右に軽くステップを踏みながら近づくタイミングを計る。相手もことごとく攻撃が躱されるのを理解したのだろう。攻撃を止め、何かを推し測るように顔を地面すれすれまで下げグルルと小さく呻きを漏らしている。こちらもステップを止め、相手の出方を静かに待つ。


 一瞬、ゾンビの赤い眼の光が輝いたようにみえた。その直後、口から炎が吐き出される。


 ――ドラゴンブレス!


 ポイズンバレットや尻尾攻撃は単発攻撃だ。これらが躱されるであれば、辺り一面を燃やすドラゴンブレス、つまり全体攻撃、面攻撃を行う方が効果的だ。判断は正しい。だが、ドラゴンブレスでは俺を倒すことも、止めることもできないのは、今までの流れで分かっているはずだ。最後の賭けにでも出たのか? 辺り一面に炎が満ちる。だが、いつもより炎の範囲が狭い気がした。なんだ? 炎の調整ミスか? などと考えを巡らせて、炎の中を駆け出そうとした時だった。


 ――ドラゴンゾンビの突進!


 相手が炎の中を、超低空飛行でこちらに向かって飛んでくるのがみえた。この距離では躱せない! ドラゴンブレスはおとりか!


 突進を回避できずにその質量をまともに受ける。そして、左肩に強烈な痛みが走る。


 ――噛まれた! 自分の体はまるで自由が利かず、ドラゴンゾンビに噛まれた部分から強引に振り回されている。捉えた獲物を離すつもりはないようで、そのまま大木の幹に頭ごと突っ込み、俺を叩きつける。背中を強打した俺の意識が飛びそうになるが、肩の痛みで現実に戻される。


 これはまずい! 左肩には、がっしりとドラゴンゾンビの頭が食らいついている。背中には太い木の幹があり、逃げ切れる状態ではない。食らいついているドラゴンゾンビの目は赤く光っており、その口からは煙が覗いて見える。本当にまずい! この至近距離でのドラゴンブレスは致命傷になる。左肩の痛みも尋常ではない。このままでは――


 なんとか右腕を動かし、【キャンセルブロウ】を相手の首筋に叩き込む。ドラゴンゾンビは呻くが、噛みついた顎を外すようなことはない。くそっ!【ヘビィスラッシュ】【乱れ突き】【スリープダガー】思いつく限りのスキルを発動し、ドラゴンゾンビの首筋に次々と叩き込むが、まるで離そうとしない。


 「不浄! 不潔! 不純! 不快! 不浄! 不潔! 不純! 不快!」


 痛みで意識が朦朧としてくるのを呼び戻すため、何か言葉を口に出してひたすら叫ぶ。そして、右手の短剣を相手の首筋に突き刺し続けることは忘れない。幸いにしてまだドラゴンブレスは撃ってこない。相手も苦しいのだろうか。しかし、左肩に噛みついた頭は決して離れることはない。むしろ噛み千切らんとばかりに深く食い込む。


 ただひたすらに右腕を動かし、相手の首筋に短剣を突き刺す。何度スキルを発動し、何度短剣を突き刺しただろうか。ふっと、全身の力が抜けるような感覚に襲われた。――限界か――動かしていた右腕も上がらなくなってきたと思ったその時、左肩に食らいついていたドラゴンゾンビがその口を開け、俺を離したのだ。幹に背中を預けて、そのまま座り込んだ俺はドラゴンゾンビを見る。ドラゴンゾンビの体は尻尾の当たりから光となって消えていくのがみえた。ドラゴンゾンビはギャオオと小さく呻いている。光が集まり、ゴールドに変わって地面に落ちるのを見届ける。


 た、倒した……


 ぼんやりと、消えたドラゴンゾンビのいた辺りを見続けた後、大きく深呼吸をする。……臭いわ。何はともあれドラゴンゾンビは倒した。沼地を見回せば、毒の霧の濃さも薄くなった気がする。大きくため息をついてすべて終わったことに安堵するが、疲れが溜まっていることで思わず項垂れる。


 ふと、右肩の噛まれた部分を確認してみる。痛みはまだあるが、動かないわけではない。血も出ているが、薬草や回復薬で治る程度だろう。


 ……ゾンビに噛まれたらゾンビになったりしないよな? 映画じゃなくてゲームだし……大丈夫だよな?




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