71 エピローグ 2
私は日増しに大きくなっていくお腹をさすりながら、ベッドで魔王様ことオサムの帰りを待つ。
最近、魔王様の帰りが遅い。
別に浮気を疑っているわけではなく、本当に仕事が忙しいのだ。というのも、またまた勇者の所為だ。南大陸に渡った勇者だが、行く先々でトラブルを起こし、私の代わりにオサムに対応してもらっているのだ。こんなことなら、あの時の会議で強く止めていればと思ってしまう。
そうこうしているうちに、魔王様が帰って来た。
「どう?南大陸のほうは?」
「何とか目途がついたよ。勇者は本当に悪運が強いな」
南大陸は伝統的にエルフと妖精族の仲が悪く、南大陸を訪れた勇者は妖精族の女王を罵倒し、エルフの女王に説教をしてしまい、大問題となった。しかし運がいいことに妖精族とエルフは、協力して勇者を追い出すことで合意し、渋々だが協力関係を築いているそうだ。
「どこかで聞いた話ね。勇者が望んだようには、なってないけど、最終的にいつもいい形で落ち着くのよね」
「一種の特殊スキルかもしれないな・・・」
そんな他愛もない会話をしながら、私たちはベッドに入った。
「もうすぐ産まれそうよ。できればお父さんやお母さんにも見せたかったな・・・」
「日本に帰る方法は、今も探している。勇者が見付けるんじゃないかと思って、諜報部隊を張り付かせているんだが、まだ報告はない・・・」
「大丈夫よ。私は魔王様が居てくれればいいんだから」
そんな感じで、いつものように眠りに落ちた。
★★★
スマホのアラームで目が覚めた。
あれ?ここは・・・
私はオサムの腕の中にいた。魔王様ではない、正真正銘のオサムだ。
寝ぼけたオサムが言う。
「どうした、ティサ?つわりが酷いのか?」
オサムも気付いたようで、驚いている。
「あれ?智子・・・夢だったのか、あれは・・・えっと、ティサっていうのはだな、別にやましい関係ではなく、えっと夢の中で・・・」
しどろもどろになるオサムに言う。
「大丈夫よ、魔王様。魔王軍四天王、智将ティサリアは魔王様をお慕いしております」
「ということは、帰って来たんだな・・・」
二人で少し、あちらの世界の話をした。
「不思議な体験だったけど、楽しかったわ」
「ああ、それで・・・その、俺たちは結婚したってことでいいのか?」
「別にいいけど、ちゃんとこっちでもプロポーズしてよね」
私を抱きしめるオサム。
「でも私はやらなくちゃいけないことがあるから、結婚は少し待ってね」
「ああ、しっかりお前を支えるよ」
★★★
それから3年が経った。
こちらに帰って来た私は、真っ先に父に謝りに行った。かなり叱られた。
特に社長を辞めると言った時は、烈火のごとく怒鳴られた。
「途中で仕事を投げ出すような娘に育てた覚えはない!!責任を持って、最後の最後までやり通せ!!」
最終的には許してもらったんだけどね。
そして、父とオサムと一緒に一軒一軒、リストラした職人やベテランの販売員、以前の仕入れ先に謝罪して回った。元々父がリストラされた職人や販売員を集めて、新たな会社を立ち上げようとしていたこともあり、散々文句は言われたが、9割の人が戻って来てくれた。
その後、会長となって会社に戻ってきた父やオサムのサポートもあり、大森家具の業績はV字回復した。マスコミにも大きく取り上げられ、売り上げも依然の水準まで戻った。その後、結婚を機に私は社長をオサムに譲った。まあ、少し長い産休みたいなものだけどね。
ある日曜日の夜、日増しに大きくなっていくお腹をさすりながら、オサムとソファに座ってテレビを見ていた。チャンネルを適当に変えていたら、驚きの人物が映っていた。
「勇者よ!!」
「本当だ・・・」
番組は、今日行われた国政選挙の選挙速報だった。
勇者の後ろには、シャシールこと秘書の向井さんが控えている。
「向井さんも戻って来られたみたいね」
「そうだね。こっちでも苦労してるみたいだな」
結果はというと、残念ながら大惨敗をしていた。
記者の質問に対して、勇者は言った。
「今後の活動ですか?砂漠を緑化しようと考えています」
呆気に取られた記者たち。勇者が続ける。
「私は不思議な夢を見ました。私が勇者になって、世界の危機を救いました。あらゆる差別を撤廃し、戦争も無くしました。それに砂漠の緑化も成功させました。だから、この世界でもやってやろうと思うんですよ」
やっぱり勇者は勇者だった。
落選でパニックになっていると感じたテレビクルーは、インタビューの途中でスタジオの映像に切り替えていた。多分SNSでは、放送事故としてネタにされるだろう。
オサムが言う。
「でもあんな人が、将来名を残すかもしれないよ。勇者だし・・・」
「そうね・・・向井さんも大変だね」
一頻り、勇者ネタで盛り上がったところで、あることを思い出した。
「ずっと忙しくて忘れていたけど、バルバラを見てみる?多分押し入れにゲーム機が・・・」
言い掛けたところで、オサムに遮られた。
「止めておこう。また転生しても嫌だしね」
「それもそうね」
私たちが体験したことが何だったかは、分からない。
でもこれだけは言える。
あの体験がなかったら、今の幸せはなかっただろう。
バルバラやエレンナ、ケトラ、ゼノビアたちには、感謝しないとね。また会いたいな・・・
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
これでこの物語は完結となります。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この作品は「無能な働き者」をテーマに執筆を始めました。頑張っても結果が出ない人は大勢います。作中にもある「戦う場所を間違えた者、それを人は無能と呼ぶ」がその答えだと思っています。ティサリアがゼノビアを救い、仲間の助けもありティサリアも救われたと思います。本当にありがとうございました。
バルバラのその後が気になる方は、こちらをご覧ください。
「絶対に私は勇者パーティーに入りません!!~勇者パーティーに入ればバッドエンド確定の不遇なサブキャラに転生したOLの生き残りを賭けた戦いが、今ここに始まる」https://book1.adouzi.eu.org/n1745jb/
それっぽい人物が登場します。
話は変わりますが、新作を書きましたのでよろしければ、こちらもご覧ください。
「実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています」
https://book1.adouzi.eu.org/n8250ko/
あらすじ
18歳のある日、エクレアは生まれ育った転職神殿から追放処分を受けてしまう。エクレアはジョブが「上級転職神官」だったが、誰一人として転職させることができなかった。更にエクレアのことを良く思っていなかった腹違いの妹のマロンが裏で糸を引いていた。そして、婚約者であった聖騎士ユリウスもマロンの策略でエクレアを断罪する。失意のエクレアは、未開の地である魔族領に向かうのだった。
そこでエクレアは気付く。自分が転職させられなかったのは、エクレアに問題があるのではなく、転職させる者に適性がなかったのだ。そして、ジョブ転職の真実に気付いたエクレアは、大聖女として崇められるまでになった。エクレアのお陰で魔族領は大発展していく。これは、無能として追放された転職神官が、大聖女として再生する物語である。
※ 妹のマロンと婚約者のユリウスは当然の如く、ざまぁされます。




