42 襲撃 2
ダイバーシティはダイバーシティらしい部隊を持っていた。
それは偵察騎兵隊だ。これは普通の騎兵隊ではない。乗っているのが馬ではなくケンタウルスで、ケンタウルスに乗っているのが、小型種のコボルトとインプだ。ケンタウルスにインプとコボルトが乗り、スリーマンセルで行動するのが基本だが、これが凄い。
ケンタウルスの機動力にコボルトの鼻、それにインプの飛行能力を生かした部隊なのだ。
コボルトは鼻が利く。索敵や追跡の任務には持って来いだが、戦闘力は低い。インプは飛行能力があるが、1時間も飛んでいられないし、飛行速度も小走り程度の速さしか出せない。その短所をケンタウルスの機動力とパワーで補っているのだった。
これも、勇者が好きそうな部隊だね・・・
なので、相手が気付かない距離から動向を把握することができるようだ。コボルトが匂いで相手の場所を突き止め、付近に来るとインプが上空から確認する。そこまでの移動はケンタウルスだ。たとえ戦闘になっても、ケンタウルスは強いし、速いから騎馬王国の騎兵隊からも逃げられるしね。
エレンナが言う。
「破城槌を用意しているから、奴らの売りである機動力は下がるだろうな。急に襲撃ポイントを変更することはできんから、直近になれば、どこに攻撃してくるかは分かるだろう。ならば、ティサの作戦もいいかもしれん」
バルバラも応じる。
「こんなの朝飯前じゃ。「土の聖女」たる妾の実力を見せてやるわ」
ケトラが言う。
「だったら、それまでは敵に気付かれないような、工作をするニャ」
私はみんなに言った。
「これはあくまでも戦争ではなく、盗賊の襲撃だからね。そうしないと勇者が来た時に何を言われるか分からないしね」
★★★
1週間後、いよいよ騎馬王国ダービットの主力部隊が「新聖女の壁」から約2日の位置まで接近していた。数は7000まで膨れ上がり、所持している破城槌は予備を入れて7本、予想通りA5地区に向かって進軍中とのことだった。敵も仕切りに偵察部隊を送って来ている。作業員を装った工作員からの情報だ。
エレンナが言う。
「敵は壁の中にさえ入ってしまえば、何とでもなると思っているようだ。それに現場には、作業員と護衛を含めても100名もいないから、壁を壊すのも簡単だと思っているのかもしれない。敵は焦るだろうな。まさかこんなことになっているとは誰も思わんだろうし・・・」
騎馬王国がこれまで、全く私たちに勝てなかったのは、「新聖女の壁」があるからだ。いくら土の壁だと言っても、そんなにすぐに壊せないし、壊している間に警戒に当たっている部隊に攻撃されてしまう。しかし、一度壁の中に入ってしまうと、彼らの独壇場だ。
今までこちらが優位に戦闘を進められていたのも、戦場を限定し、戦力を集中できたからだ。
壁を破られて、中に侵入されるといつ来るとも分からない襲撃に怯えて過ごさなくてはならない。ダイバーシティ周辺に新たな壁を作れば急場は凌げるだろうが、それでは都市周辺で行っている放牧などの産業は全滅するだろう。そうなるとゆくゆくは、ダイバーシティが崩壊してもおかしくはない。相手にとってみれば、壁を破ることに全戦力を集中させることは、コスパは高く、部族の運命を懸けるに値する作戦なのだ。
ケトラが言う。
「でもちょっと可哀想ニャ・・・壁を破ったらあんなことになるなんて・・・」
「だからこそじゃ。絶望に打ちひしがれているところを一気に叩く。そして、投降を促せばいい。ティサにしては、エグいことを考えたのう」
私だって、女王だ。偽物だけど・・・
国を守るためだったら、何でもする。
現地付近で私たちも作業員に扮して待機する。このときには本職の作業員は、すべてダイバーシティに帰還させ、兵士と入れ替えている。しばらくして偵察騎兵隊から報告があった。
「間もなく、こちらにやって来ます」
「分かったわ。目視できるようになったら、作戦通り、この場所を放棄して逃げましょう。くれぐれも真剣に逃げてよね」
報告から1時間もしない内に騎馬王国の大群が現れた。
予定通り、作業員に扮した兵士たちが、怯えた叫び声をあげて逃げいく。騎馬王国の軍勢は、手際よく壁に破城槌を打ち付けて、破壊していく。しばらくして、壁の一部が崩壊した。騎兵隊が崩れた箇所からどんどんと侵入してくる。
「壁を越えたら、こっちのもんだ!!」
「略奪し放題だぞ!!」
「まずはダイバーシティだ!!更地にしてやるぜ!!」
騎馬王国の騎兵はダイバーシティ方面に進軍して行く。しばらくして、彼らは絶望した。
「そ、そんな・・・」
「こんなの聞いてないぞ・・・」
こうなることを予想して、手を打っていた。壊された壁の内側に頑丈な壁を作っていたのだ。指揮官は異変に気付いたようで、すぐに指示を出す。
「これは罠だ!!すぐに撤退するぞ!!」
もう遅い。
「バルバラ!!お願い!!」
「任せておけ。グレートウォール!!」
バルバラの土魔法で、完全に進入路を塞いだ。彼らは袋のネズミだ。
エレンナが指揮をする。
「遠距離攻撃部隊!!一斉射撃!!近接攻撃部隊は、壁を登って来る奴らを叩き落とせ!!」
相手は大混乱だった。
壁さえ壊せば、どうとでもなると思っていただろうしね。それに自分たちが狩る側だと思っていたのが、一気に自分たちが狩られる立場になったのだから。
もはや戦闘と呼べるものではなかった。相手の騎兵隊は、どんどんと打ち倒されていく。しばらくして、相手から白旗が上がった。
エレンナが、拡声の魔道具で警告を発する。
「撃ち方止め!!盗賊どもに告ぐ!!今すぐに武器を捨てろ!!命だけは保障しよう」
その後、戦後処理へと移行した。ダイバーシティ軍は、歓声を上げる。
「侵入者から俺たちの町を守ったぞ!!」
「俺たちの町は俺たちで守る!!」
「みんなやったぞ!!こんな大軍に勝てるなんて、思わなかったけどな・・・」
バルバラが言う。
「彼らもこれで、自信がついたようじゃのう?」
「本当にねえ・・・これで彼らだけでもやっていけるでしょうね」
「うむ、後は騎馬王国がどうするかじゃが・・・」
★★★
捕虜は3000人以上になった。ここまで捕虜に取られることは、騎馬王国も想定していなかったようで、正式に講和の使者が訪れた。
「この度は、ユルト部族が勝手なことをして申し訳なかった。騎馬王国ダービットとしても、賠償金は支払う。ユルト部族には、『絶対に早まったことをするな』と言っていたのだが・・・」
絶対に嘘だ。盗賊という言い訳ができなくなったので、一つの部族を生贄にして、「国は悪くない」と言い訳してきたのだ。賠償金を少しでも、安くしようという魂胆だろう。
「分かりました。そもそもの話、国境が画定していないことが大きな問題です。なので、現時点で支配している地域を国境として画定しようと思っています。いいですね?」
「そ、それは・・・」
使者は渋々納得した。賠償金の額は大幅に減額されたけどね。
使者が帰った後、エレンナが言った。
「ティサ、よかったのか?もっと賠償金は吊り上げられただろうに」
「あまり追い込み過ぎても、よくないわ。早く終わらせたかったしね。国境線を画定させたことだけでも、こちらは目標達成よ。それに奴の動向も気になるしね。奴が帰ってくれば、まとまる話もまとまらなくなるし・・・」
「それはそうじゃ・・・奴だけは、どうにもできんからな」
情報によると近々、奴が帰って来る。
危険な彼女が・・・
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