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転生したポンコツ女社長が、砂漠の国を再建する話  作者: 楊楊
第三章 和解

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21 ザルツ部族

 私は今、ザルツ部族の資料を読んで、途方に暮れている。


 ザルツ部族は、少々特殊だ。

 住民のほとんどが獣人で、大草原と面しているため、騎馬王国ダービットと諍いが絶えない。主要産業は放牧と岩塩の生産で、貴重な岩塩を各部族に適正価格で融通してくれている。儲けようと思えば、もっと儲けられたのに、そうしなかった。それには訳がある。


 200年以上前の話だが、時の女王が虐げられている獣人たちを保護したことに始まる。当時の女王としても、大草原の一部を確保しておきたいという思惑もあったようだが、獣人たちはこれに感謝し、義理堅く今までヴィーステ王国を支えてくれていた。その当時は塩が貨幣の役割を果たしていたこともあり、岩塩の値段を吊り上げようと思えばできたのだが、それはやらなかった。また、飢饉のときは、各部族に食料援助もしてくれていたようだ。

 ヴィーステ王国としても、そんな獣人たちを厚遇し、ザルツ部族として自治も認めた。騎馬王国との紛争があれば、ヴィーステ王国も援軍を送り、協力して対処してきた。クレオラの時代までは・・・


 今の状況を考えると、ザルツ部族を厚遇する必要はない。

 トリスタを中心とした塩田事業を拡大すれば、ザルツ部族の岩塩に頼る必要もないし、食料危機が起こっても帝国から輸入すれば急場は凌げる。

 クレオラの時代は、それでも以前と変わらぬ付き合いをしていた。岩塩の買取価格が下がっても、ザルツ部族のことを考えて、一定量を少し高めの価格で買い取っていた。これは、長年国を支えてくれていたザルツ部族に対する義理からだろう。


 しかし、ゼノビアが女王になってから一変する。

 ゼノビアはコストカットの為、クレオラがしていたようなことはせず、岩塩をできるだけ安く買い叩こうとした。また、塩田事業も大々的に進める方針を打ち出し、海運事業も始める。こうなるとザルツ部族は、「長年国を支えてきた我々にこの仕打ちか!!これがお前らのやり方か!?」とキレても仕方がない。

 また、軍事国家スタリオンにすり寄ったことも大きい。スタリオンは明確に獣人を排斥している。そんな国にすり寄るゼノビアに不信感を抱いて当然だ。


 そして決定的となったのは、ゼノビアの婚約者ハリードの死だ。

 報告書を読む限りでは、これは不幸な事故だった。視察中のゼノビアが魔物の群れと遭遇し、ゼノビアを庇ったハリードが戦死する。ゼノビアも重傷を負った。

 これに対して族長で、ハリードの姉のアイーシャは、ゼノビアを罵倒した。


「弟を返せ!!スタリオンに取り入るためにハリードを殺したんだろ!?このアバズレが!!」


 ゼノビアは、ハリードを愛していた。これはゼノビアの個人的な日記を読む限り、間違いはない。ただでさえ、婚約者を亡くして落ち込んでいるゼノビアにこの言葉は堪えた。それ以後、ザルツ部族との関係は冷え切ってしまった。ザルツ部族の一部は騎馬王国スタリオンと密かに接触し、分裂の危機にもある。


 これもゼノビア失策ランキングのベスト3に入る失策だ。


 バルバラが言う。


「合理的に考えるなら、ザルツ部族を切ってしまうのも手じゃな。岩塩がなくても困らんし、騎馬王国に大草原全土を取られても、砂漠を渡って侵攻はして来んじゃろうしな。人としてどうか?とは思うがのう」


「そうなのよね・・・助けてあげたいけどね」


 近年、ザルツ部族の状況は悪化している。騎馬王国との諍いも絶えないし、確保していた大草原の多くも切り取られている。岩塩の価格も下がり、このままではザルツ部族は滅亡してもおかしくはない。


 エレンナが言う。


「長年支えてくれたザルツ部族に不義理をしたゼノビアが悪い。私がザルツ部族の族長なら、ゼノビアの首でも持って来んかぎりは、許しはせんだろうな」

「嫌よ!!何で私がゼノビアとして、殺されなきゃならないのよ!!」

「物の例えだ。ティサに死ねと言っているわけではない」


 そんな答えの出ない話をしていたところにケトラが、慌てた様子で駆け込んできた。


「た、大変だニャ!!ケトルがやらかしてしまったニャ!!このままでは、「始まりの遺跡」も終わってしまうニャ!!始まったばかりなのにニャ!!」


 どうやら、またトラブルに巻き込まれたようだ。



 ★★★


 ケトラから詳しく話を聞く。

 ケトルは本当に馬鹿だった。「無能な働き者」どころではない。


「ケトルは調子に乗って、新たなダンジョンを買ってしまったニャ。ダンジョン協会におだてられて、ゴミみたなダンジョンを掴まされたのニャ」

「ところでどんなダンジョンなの?」

「それは「始まりの遺跡」と同じ、遺跡型のダンジョンだニャ。そして馬鹿なことに大量に設備投資をしてしまったニャ。「始まりの遺跡」と同じことをすれば、大丈夫だと思っていたみたいニャ」


 バルバラが言う。


「話を聞く限り、「始まりの遺跡」と同じことをすれば、それなりに儲かるのではないのか?」

「それが立地が最悪だニャ。湖のど真ん中にあって、誰も来ないニャ」

「誰も来ないなら、いくら設備が良くてもどうしようもないのう」


 ケトラが言うには、新しく買ったダンジョンの赤字を「始まりの遺跡」のダンジョンポイントで、補填して何とかやりくりしているが、遅かれ早かれ、破綻するという。

 そうなると、こっちの事業にも影響が出て来る。


「私がトリスタにずっと居たから、ケトルが馬鹿なことを仕出かしてしまったニャ・・・ティサ!!もう一度だけ、ケトルを助けてほしいニャ」


 助けない選択肢はない。「始まりの遺跡」はパルミラの重要施設で、「始まりの遺跡」がないと事業そのものが成り立たない。


「分かったわ。でも今回だけよ。それとケトルにはお説教をしないとね」

「それは大丈夫ニャ。私とケットシーのスタッフで、それは厳しい折檻をしたニャ。それで今はケトルの姉のキトルに監視をしてもらっているニャ」


 ケトルはギルマスのなのに、監禁されているようだ。まあ、やった事がやった事だけに仕方がない。


「とりあえずは、そのダンジョンの確認をしないとね。ところで、場所はどこなの?」


 ケトラが地図を指示した場所は、何とザルツ部族の居住区だった。


 これも運命的なものを感じる。

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