小田原城の戦い8
闇は恐怖を倍増させます。しかし逃げ延びる者も多くなるのも事実です。
宇都宮広綱は全身を恐怖で震わせ闇の中を敗走していた。
風魔勢の兵糧への焼き討ちで軍勢が大混乱に陥り、支給される食事を目当てに集まっていた雑兵達は我先にと、大名である自分を見捨てて逃げ出してしまった。
自分の周りには僅かな家臣しかいない…追撃をされたら命はないだろう。
そして逃げる中、武蔵勢に突撃する風林火山の旗をと、佐竹や小田や古河公方の陣へ突撃する龍の旗を見た。
東海道屈指の大大名で、足利氏の流れを組む名門の今川義元に勝ち戦で、小田原城を囲むだけで恩賞を貰えると言うから参戦したのに…話が違う。
尾張の弱兵の何倍も強いと言われる三河兵の話は有名だが、その更に数倍強いと甲斐兵と越後兵が相手だなんて聞いていない。
武田はともかく…なぜ上杉までがと思うと震えが止まらないのだ。
知っていれば小田原城攻めなどに参加しなかったと後悔する。
そして、上杉政虎はあえて宇都宮広綱を追わなかった。
斎藤朝信率いる別働隊が宇都宮城を攻撃してるからだ。
山県昌景率いる別働隊により古河御所、あわよくば小田城も落城するだろう。
だから宇都宮広綱をわざと見逃し、無能な小田氏治は無視して確実に殺しておきたい古河公方親子と、軍勢として纏まりながら退却する佐竹勢に狙いを絞って攻撃する。
追われる佐竹勢はたまったものではない。
「かかれぃ!かかれぃ!かかれぃ!かかれぃ!」
軍神の叫び声が戦場に響き渡り、背後から迫ってくるのだ。
後方の部隊から悲鳴や断末魔の声が迫ってくる。
「かかれぃ!かかれぃ!かかれぃ!かかれぃ!」
佐竹義昭は生きた心地がしていなかった。最早これまでかと覚悟を決めたが、天はまだ彼等を見捨てていなかった。
上杉政虎が逃げる古河公方親子を発見した為、上杉軍は古河公方に襲いかかったからだ。
這々の態で佐竹義昭は居城の常陸太田城まで逃げ延びることが出来たのだが、佐竹勢ではこの恐怖が、トラウマになり、赤ん坊が泣くと「上杉政虎がくるぞ」と言えば泣く子も黙るようになった程である。
運が悪かったのは古河公方親子で足利晴氏は上杉政虎に、足利藤氏は鬼小島弥太郎に首を取られてしまったのである。
こうして上杉軍は追撃の手を止め引き上げるのであった。
目をつけられたら一巻の終わりです。次回は小田原城の戦いでの最後の戦闘です。




