第190話 交錯する想い、揺れる心
ヴィヴィアンに自分の想いを自覚させるための“計画”を実行するため、テルルは今、ユークの部屋を訪れていた。
(遅い……ヴィヴィアン、いったいどこで足止めを食らっておるのじゃ……!)
テルルは心の奥で焦燥を募らせながらも、表情には平静を装っている。
「テルル?」
ユークは思わず声をかけた。彼女の表情が普段と違い、どこか張り詰めて見えたからだ。
「……その、ユーク」
テルルはわずかに視線を逸らし、ためらいがちに言葉を紡ぐ。
「もしも……ヴィヴィアンが、ユークの恋人になりたいと言ってきたら……お主は、どう答えるのじゃ?」
意外な問いにユークは一瞬目を丸くしたが、すぐに口元に笑みを浮かべる。
「その時は……ちゃんと向き合って答えるよ。誤魔化したり、なかったことには絶対しない」
「……向き合う、か」
テルルは、ユークのその言葉に安堵の息を漏らした。
だが、ヴィヴィアンがユークに恋する気持ちを想像するうちに、いつしかテルルは、自分自身のことのように考えてしまっていた。
もし、ユークに告白をしたら……? 彼なら、自分にも「向き合って」くれるのだろうか?
やがて彼女はそっとユークに身を寄せた。彼の肩に髪がかかるほどの距離まで近づくと、心臓の音がうるさいくらいに聞こえてくる。
「さっき……ワシのことを可愛い女の子だと言ったな……」
テルルは遠慮がちに問いかける。
「うん」
ユークは迷わず答えた。
「ワシは、中身は男で……孫もおるジジイじゃぞ? それでも、まだそう言えるのか?」
吐き捨てるような声。しかし、その奥に揺れる不安をユークは感じ取った。
ユークは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに微笑みを返す。
「うん。俺はそう思うよ。だからそんな顔をしなくていい」
彼女の肩を引き寄せ、そっと抱きしめる。頭に触れる小さな温もりが、自分の胸の鼓動を確かに速めていた。
「う……」
ユークに抱きしめられ、意外としっかりした胸板に包まれるテルル。顔が一気に熱くなり、言葉を失ってしまう。
「それに……」
ユークは一拍置いてから、抱擁をほどき、彼女の瞳をまっすぐに見た。
「男に抱きしめられてそんな顔をするおじいさんなんて、いないだろ?」
ユークは軽く笑った。
「あっ……」
テルルは声を失い、ただ熱に浮かされたようにユークを見つめていた。
(まずい……このままではワシ、本気でユークのことを……)
その思いが頭をよぎった瞬間――
「……っ!」
廊下の方から、かすかな足音。ドアの隙間から、ピンク色の髪がちらりと覗いた。
(来た!)
テルルの心臓が跳ねる。
「なっ、テルル!?」
彼女は勢いよく抱きつき、ユークの胸に顔を押し当てる。
「す、少しの間……こうさせてくれ!」
「ちょ、落ち着けって……!」
突然の行動にユークは驚き、今までの自然な距離感が一気に崩れる。
その瞬間、ドアが大きな音を立てて開かれた。
「――っ!?」
立ち尽くすヴィヴィアン。頬は赤く、瞳は大きく見開かれていた。
「ヴィヴィアン……?」
ユークが声をかけたが、返事はない。
(さあ……どう出るんじゃ、ヴィヴィアン……!)
ユークの腕に抱かれたまま、敢えて沈黙を保つテルル。ヴィヴィアンの心に火を灯すために。
◆ ◆ ◆
「ちょっと部屋にいるセリスを呼んできてくれないかしら?」
アウリンの言葉に従い、ヴィヴィアンがセリスの部屋に向かう途中で、異変に気付いた。
(何かしら……ユーク君の部屋から声がするわ……)
気になって、半開きのドアからそっと覗いた瞬間――
「えっ!? おじいちゃん!?」
思わず声が漏れた。そこにはベッドの上に座り、互いに見つめ合うユークとテルルの姿があった。
(なんでおじいちゃんとユーク君が……!?)
驚き、混乱するヴィヴィアン。
(……えっ? 今……)
そんな中、ヴィヴィアンは一瞬、テルルと視線が交錯した気がした。
「うそ……」
次の瞬間、テルルが思い切りユークに抱きつく。ヴィヴィアンの胸が、まるで掴まれたかのように締め付けられた。
(そんな……何で……)
ヴィヴィアンの心が揺れる。
嫌な光景が脳裏をよぎった。
(もし……、おじいちゃんがユーク君の恋人に加わったら……)
――他の仲間たちがユークと笑い合う中、自分だけが離れて座っている未来。
背筋を冷たいものが走る。
(私も……、私だって……!)
衝動に突き動かされ、ヴィヴィアンはドアを押し開けた。
大きな音にユークが振り返り、目を見開く。
「ヴィヴィアン!?」
「ユーク君……おじいちゃんと……いったい何をしてるの……!?」
ヴィヴィアンの声は震え、混乱と怒りが入り混じっていた。
「そ、それは……」
アウリンに頼まれて、と言おうとして止める。もし他の誰かに聞かれても、私から頼まれたことは黙っていて、そう言われていたからだ。
「俺は、テルルに頼まれて……実験を手伝ってただけだよ」
ユークはこれ以上言葉を選べなかった。
「実験……?」
ヴィヴィアンの声は震え、視線がテルルへ向かう。
「ユーク、証明して欲しいんじゃ……ワシが女の子だってことを……!」
テルルは挑発するようにユークの首に腕を回した。
「実験って、何の実験よ……!?」
祖父とユークのやり取りを目にしたヴィヴィアンは、怒りとショックで声を上げる。
「っ……! 大丈夫か、ヴィヴィアン!」
ユークがテルルをそっと離し、慌てて彼女のもとへ駆け寄る。
「え……?」
呼びかけに気づいたヴィヴィアンは、自分の顔に触れる。そこには、いつの間にか涙が溢れ、頬を濡らしていた。
自分でも理由が分からないまま、ヴィヴィアンは涙を流していた。胸の奥が焼けつくように苦しい。ただそれだけがはっきりしていた。
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ユーク(LV.44)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:大切な仲間たちの感情をどう受け止めるか、答えを探し始めている
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ヴィヴィアン(LV.42)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:その感情の名前はまだ分からない。
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テルル(LV.34)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:自分の内に芽生えた想いに気づき始め、戸惑っている。
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