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「お前は用済み」と追放されたけど、俺のことが大好きな幼馴染も一緒に抜けたせいで元パーティの戦力が崩壊した件  作者: 荒火鬼 勝利


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第182話 総力戦、肉スライム討伐


「みんな、俺に考えがあるんだ! どうか聞いてほしい!」


 ユークの声が響くと、仲間たちの視線が一斉に集まった。


「考えがあるじゃと?」

 テルルが眉をひそめて問いかける。


「ヴィヴィアンが最初に使ってくれた、転移封じの天蓋って魔道具があっただろ?」

 ユークが言うと、アウリンが頷いた。


「ええ、博士が転移魔法で逃げるのを防ぐために使ったものね」


「そんなものまで用意しておったか……」

 テルルは感心したように呟いた。


 ユークは仲間の反応を確認しながら言葉を続ける。

「あれは魔法を魔力に戻す効果のある壁で、ドーム状に覆う仕組みだったはずだ」


 その説明に、ヴィヴィアンがはっと息を呑む。

「まさか……!」


「あの天蓋の壁に、あいつをぶつけてやれば、奴の命の源である魔力を消し去れるんじゃないか?」


 ユークは真剣な眼差しで言った。


「なるほど……確かに理屈は通る。しかし問題があるぞ?」

 テルルは視線を肉スライムへ向ける。


「問題?」

 ユークが問い返す。


「奴の位置は部屋の中央。だが天蓋の壁は奥に寄っておるのじゃろ? あの巨体を壁際まで押し出せるかどうか……」


 ユークも振り返り、絶句した。

 肉スライムはすでに天井に届くほど巨大化していたのだ。


「もう、ここまで……」

 アウリンも顔を青ざめさせる。


 テルルはさらに言葉を重ねた。

「それに奴の体は沈み込むほど柔らかい。触手も無数にある。そもそも、押し出すこと自体が難しいんじゃ」


「やっぱり無理なのか……」

 テルルの言葉に、ユークは悔しそうに顔をうつむかせる。


 その沈黙を破ったのは、ヴィヴィアンだった。

「あのっ!」


 全員の視線が彼女に集まる。


「ユークの考えを聞いて、思い浮かんだの。私のスキルなら、もしかしてやれるかもしれないわ……!」

 決意を帯びた声に、仲間たちの表情が変わる。


 ◆ ◆ ◆



「頼む、ヴィヴィアン!」

 全員が位置に立ち、ユークが声を上げた。


「任せて!」

 ユークの言葉に、ヴィヴィアンは力強く頷いた。


 彼女は盾を構え、力強く叫ぶ。


「――《インヴィンシブルシールド》!」


 彼女の前に正方形の半透明の盾が現れる。それは次々と連結し、左右や上へと広がり、瞬く間に巨大な壁を形作った。


 肉スライムの巨体をも覆い隠すほどの盾の壁に、仲間たちは息を呑む。


「よし、いくわよ!」

 ヴィヴィアンは盾を前に押し出した。連動するように、巨大な盾の壁も肉スライムへと迫っていく。


「んっ……!」

 肉スライムに接触した瞬間、ヴィヴィアンの腕に強烈な抵抗が伝わる。まるで分厚いゴムの塊を押しているような、ねばつくような重さだ。ヴィヴィアンは歯を食いしばり、全身の力を込めて押し続けた。


「行けるっ! このまま壁際まで押し込むわ!」

 ヴィヴィアンが叫ぶ。


「俺も手伝うよ!」

 ユークが声をあげて駆け寄っていく。


「助かるわっ!」

 ヴィヴィアンが嬉しそうに叫ぶ。


「それじゃあユーク君はそっちの盾の方を押してくれるかしら?」

 ヴィヴィアンが巨大な半透明の盾の壁の方を指をさす。


「これ?」

 ユークがそっと手で触れると、まるで水滴が落ちたように波紋が広がっていく。


「うわっ!」

 慌てて手を離すユーク。


「な、なんだこれ……!」

 ユークがそっと手を触れると、半透明の盾に波紋が広がる。


 慌てふためくユークに、ヴィヴィアンは微笑みながら説明する。


「ふふ、その半透明の盾はね、私の盾と連動しているの。物理的な攻撃も防げる特別な力場でできているから、触れることも出来るし、押したりしても問題ないのよ」


「なるほど……」

 ユークは改めて力を込め、波紋を大きく広げながら押し始めた。


「よし、分かった。やってみるよ!」

 ユークが力を加えていくごとに、波紋はどんどん大きく広がっていく。


「私は、魔法で援護するわ!」

 アウリンが杖を構えて笑みを浮かべた。


「――《コンセントレイション》!」

 アウリンがスキルを発動させ、詠唱を始める。


「ただいまー!」

 その時、セリスが助けた帝国兵を脇に抱え戻ってきた。帝国兵は高速移動に巻き込まれたのか顔面蒼白になっている。


「みんな、何してるの?」

 セリスは床に兵士を下ろし、目を輝かせて近づいてくる。


「セリスも押すのを手伝ってくれ! 奥の壁まで押し出せれば、こいつを倒せるかもしれないんだ!」

 ユークが簡潔に説明すると、セリスは楽しげな声で答えた。


「分かった! 私もやる!」

 セリスは迷いなく盾に手を添え、ユークと共に力を込めはじめる。


 じわじわと、肉スライムが部屋の中央から奥へと押し出されていく。


「よく分からんが……これを押せばいいんだな? だったら俺も手伝う。力には自信があるんだ!」

 セリスに助け出された帝国兵が、ヴィヴィアンの作り出した半透明の盾の壁へと手を添えた。


「助かる!」

 ユークが礼を言う。肉スライムはすでにさらに大きくなり、何本もの触手で音を立てて盾の壁を叩きつけていた。


「う、重い……っ!」

 セリスが額に汗を浮かべながら声を上げる。


「どうした、何があった!?」

 周囲にいた帝国兵たちも異常を察し、駆け寄ってくる。


「こいつを壁まで押し込めば倒せるらしい!」

 先に加わっていた兵士が仲間に説明すると、


「分かった! なら俺も手を貸す!」

「俺もだ!」

 次々に兵士たちが盾へ手を添え、押し始める。


「いい調子よ! どんどん進んでるわ!」

 ヴィヴィアンが笑顔を見せ、士気を高める。


「吾輩も力を貸すのである!」

「俺もやろう!」

 オライトとダイアスも加わり、押し合う力がさらに増していった。


 その間に、アウリンの詠唱が終わる。


「――《ブレイドストーム》!」

 風の刃の竜巻が肉スライムを切り裂く。しかし、魔法はほとんど効果を示さなかった。


「なんでよっ!? 風属性の魔法なんて、コイツ相手には初めて使ったのに!」

 アウリンが悔しげに叫ぶ。


「恐らくは、斬撃への耐性が付いたんじゃろう! セリスが帝国兵を救うために切り刻んでおったからの!」

 テルルが盾を押しながら答える。


「……なるほど。なら氷ならまだ効くはずね!」

 アウリンは気を取り直し、すぐに次の魔法へと集中する。


「私たちもやります!」

「私も……!」

「え? ウチも押すんスか? マジで?」

 そこへラピスたちが駆け込み、盾を押す列に加わった。


 膨れ上がる肉スライムは、大勢の力によってじりじりと壁際へ追い詰められていく。


「――《アイスコフィン》! 凍りつけっ!」

 アウリンの氷魔法が炸裂し、肉スライムの一部が白く凍りついてごっそりと崩れ落ちた。


「やった、少し軽くなったぞ! このまま押せ!」

 誰かが叫び、一同は一気に力を込める。肉スライムは壁ギリギリまで追い詰められていく。


 しかし、そのときだった。


 肉スライムの触手の一部が、部屋の壁に触れる直前で消失する。


 肉スライムはここで初めて危機を感じたのだろう。触手を床に突き刺し、巨大な体を固定してしまったのだ。


「ぐっ! 一気に重くなった!」

「あと少しなのに!」

 半透明の盾の壁は部屋の端を目前にして、ピタリと動きを止めてしまう。


「おい! あいつ、伸びてやがるぞ!」

 誰かが叫んだ。肉スライムは、部屋の壁と半透明の盾の壁の隙間を上に伸びていく。


「上だ! 気をつけろ!」

 叫び声と共に、肉スライムの触手が盾の壁を乗り越え、帝国兵たちを襲った。


「レキが掴まれた! 誰か助けてくれ!」

 一人の帝国兵が触手に巻き付かれ、周りの仲間が必死に押さえつける。


「私がやる! 『ブレイクスラッシュ』!」

 セリスが咄嗟に跳躍し、魔槍を振り下ろす。


「くっ! さっきよりも硬い!」

 しかし、斬撃に耐性があるのか半分ほどしか断ち切れない。


「もう一回! 『ブレイクスラッシュ』!!」

 二度目の斬撃でようやく触手を切り裂き、帝国兵を解放した。


「もう次は無理!」

 セリスが珍しく、焦った声を出す。


「みんな、下がるんじゃ! アウリンが魔法で焼き払う!」

 テルルが大声で指示を飛ばした。


「だが今、押すのをやめたら!」

 兵が反論するが、テルルは首を振る。


「大丈夫じゃ! 早く!」


 兵たちは悔しげに手を離し、誰もが盾から離れていく。


「いいぞ! アウリン、やれ!」

 テルルの叫び声が響く。


「――《プロミネンス・ジャベリン》!!」

 それは彼女の現在使える最強の炎魔法だった。


 灼熱の槍が放たれ、肉スライムを直撃する。たとえ肉スライムが炎耐性を持っていても、EXスキルで強化されたその一撃には抗えず、身を焼かれ声の無い絶叫を上げた。


「おおおっ!」

「すごい!」

「これなら…!」

 魔法を避けるために離れていた人々から歓声が上がる。


 だが、すぐに疑問の声もあがった。


「でも……床が……これじゃ、どうやって押すんだ!?」

 強化された炎の魔槍はあたり一面を灼熱で焼き尽くし、床の鉄板すら真っ赤に焼けていた。これではとても盾の壁を押せるような状態ではない。


「――《アイスバインド》!」

 ユークが魔法を放つと、床一面を氷が覆い、灼熱で熱された温度を一気に冷ましていく。


「おおお!!」

 驚きと歓声が沸き起こった。


「よし! これで大丈夫なはずだ!」

 氷を解除したユークの言葉に、再び仲間たちが集まる。


 床は黒くデコボコになっていたが、押すことに支障はなさそうだった。


「「うおおおおおっ!」」

 総力を結集し、今度こそ小さくなった肉スライムを壁へ押し込む。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 ユークも叫び、全力で押した。


 肉スライムは転移封じの天蓋に触れた部分から、まるで霧のように消滅していく。


「これで終わりよ!」

 最後はヴィヴィアンが実体のある盾で、肉スライムの最後の一片まで押し潰し、完全に消滅させた。


「……どうだ?」

 誰もが息を呑んで見守る。


 肉スライムは二度と再生する気配はなかった。


「やった……! 倒したんだ!」

「うおおおおおっ!!」

「やったー!」

 歓声が部屋いっぱいに響き渡る。


 こうして、恐るべき脅威となる前に、彼らは肉スライムを討ち果たしたのだった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.44)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫

備考:テルルから知らされて、床を冷やす魔法を準備していた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.42)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪タクティカルサイト≫

EXスキル2:≪ブーステッドギア≫

備考:割と最近では一番斬りにくかったかもしれない。

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アウリン(LV.43)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫

EXスキル2:≪コンセントレイション≫

備考:魔法を準備していたが、避難させるタイミングに困っていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.42)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫

EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫

備考:だいぶ活躍できてうれしい。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

テルル(LV.23)

性別:男(女)

ジョブ:氷術士

スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)

EXスキル:氷威力上昇

備考:アウリンが詠唱している魔法に気付き、ユークに知らせた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

肉スライム(LV.??)

性別:??

ジョブ:??

スキル:??

備考:このまま成長していれば、国一つくらい飲み込んでいただろう。

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