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「お前は用済み」と追放されたけど、俺のことが大好きな幼馴染も一緒に抜けたせいで元パーティの戦力が崩壊した件  作者: 荒火鬼 勝利


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第179話 夢の終わり


「僕は……そうだ、英雄に……」

 全身から無数の触手を生やし、異様な姿となった博士がつぶやく。


「僕はこの力で、英雄になりたかったんだ……!」

 顔は触手に覆われて判別できなかったが、その眼だけからでも狂気が伝わってくる。やがてその呟きは明瞭(めいりょう)な言葉へと変わっていく。


「英……雄……?」

 アウリンは信じられないという表情を浮かべる。


 彼女の脳裏には、博士に(さら)われた子供達や、殺されたギルドガードの隊員の姿がよみがえる。


「ふざけ……ないで……!」

 アウリンは拳を強く握り、歯を噛み締めながら呟いた。


「ふざけるなっ! あんたがやってきたことは、人を傷つけ、不幸にしてきたことばかりじゃない! それが英雄? ふざけないでよ……アンタは英雄なんかじゃない! ただの卑劣(ひれつ)な犯罪者よ!!」


 怒りに震え、大声で吐き捨てるアウリン。博士はその言葉を聞き、目だけをギョロリと彼女に向ける。


「いいや……僕は英雄になる。そう決めて、ずっと準備を重ねてきた。信奉者共に協力して、賢者の塔に封印されている魔獣を復活させる手伝いまでしてやったんだから』

 その声音(こわね)には、これまでとは違う確固たる意思が(にじ)んでいた。


「……は? 封印された魔獣を……復活させる??」

 アウリンは博士の言葉を、理解できないという顔で返す。


「アンタは英雄になりたいんでしょ? じゃあ逆じゃない! なんで魔獣なんか復活させるのよ! 意味がわからないわ!!」

 再び激昂し、博士を怒鳴りつけるアウリン。


『英雄には敵が必要だ! そうだろう? ただ強いだけじゃ英雄とは言えない。強く! 邪悪で! 人々の安寧を阻む存在――それを倒してこそ、初めて英雄は英雄と呼ばれる! だから魔獣には復活してもらわなければならない! この僕に、倒されるために!!」

 博士は狂気に満ちた笑みを浮かべ、触手の体を揺らしながら高らかに叫んだ。


「そんなの、ただの自作自演じゃない!」

 アウリンが博士を指差し、怒りに任せて叫ぶ。


『それの何が悪いんだ? 自作自演? 良いじゃないか! 倒すべき邪悪がいないのであれば自分で用意すればいい、セルフプロデュースというヤツだよ。ただ待っているだけで英雄になどなれはしない!!』


 触手に覆われた巨体の口が裂け、醜悪な笑顔が浮かぶ。その不気味な姿に、セリスもアウリンも顔をしかめた。


『まあ、君たちのおかげで英雄にふさわしい力をすべて得ることは出来なかったが……いいさ。これからまた積み上げていけばいい』

 博士は一瞬うつむき、ため息を吐いた。


「だから――」

 再び血走った目がアウリンに向けられる。


「君たちを殺すとしよう。この僕が、(英雄)へと進むために!」

 全身から放たれる殺気に空気が震えた。博士が一歩踏み出すと、アウリンの顔に焦りの色が浮かぶ。


 同時にユークも胸の奥で焦燥(しょうそう)(つの)らせていた。


(アウリンが時間を稼いでくれたおかげで、詠唱は進んだ……けど、このままじゃ範囲外に逃げられる! なんとしてもここで足止めしないと!)


 ユークは隣のセリスに視線を送る。セリスは即座に彼の意図を理解し、魔槍を構えて博士へと突撃した。


「はあああああああ!!!」


 だが――。


『邪魔だッ!』


「ぐっ!」

 博士の触手が唸りを上げ、セリスの体を弾き飛ばす。


「それならっ!」

 彼女は地面に着地すると同時に再び距離を詰めた。


『何度やっても無駄さ』

 博士は冷笑する。


「『ビーストソウル』!!!」

 セリスが火傷の男、ディアンから覚えた疑似EXスキルを発動する。


 彼女の全身からオーラが立ち上り、身体能力が一気に跳ね上がった。


「おおおおおおお!!!」

 猛然(もうぜん)()け、博士の体を次々と切り裂いていく。


『ぐっ……! 速すぎて……触手で捉えきれないだと!?』

 博士の体は斬られても再生するが、それを上回る速度でセリスの魔槍が突き刺さる。


「はああああああああ!!!」

 彼女は猛攻を繰り出し、ユークが展開する魔法陣の範囲へと博士を押し込んだ。


「ぐっ……!」

 セリスの顔には苦悶(くもん)の色が浮かぶ。


 彼女が使用した擬似EXスキル『ビーストソウル』は、本来のスキルに比べて完成度が低い。もともと肉体に大きな負担を強いるものだが、擬似的なそれはさらに負荷が増しており、無理な強化によって彼女の体を確実に(むしば)んでいた。


『舐めるなよ小娘がぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 博士が激昂するが、それより早くユークの詠唱が終わる。


「――《ストーンヘンジ》!!」

 博士の足元から圧縮された石の柱が無数に突き上がり、巨体を取り囲んで拘束する。


『なっ! なんだこれは!?』

 博士が咆哮し、暴れる。だが石柱はびくともせず、その体を貫き続けた。


「アウリン!」

 ユークの声に、アウリンは力を解き放つ。


「あなたの歪んだ夢は、ここで終わらせる! EXスキル――《イグニス・レギス・ソリス》!」


 天に展開した巨大な魔法陣から、太陽のような光球が姿を現す。燃え盛るそれは猛烈な熱を放ちながら、拘束された博士へと降下していった。


「離れて!」

 セリスがユークとアウリンを抱え、範囲の外へ跳ぶ。


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!』

 灼熱の太陽が博士を包み込み、肉体を焼き尽くす。


 再生しても焼かれ、悲鳴は長く響き続けた。やがて声は途絶え、小さな太陽が燃え尽きると、そこには黒焦げの残骸だけが残っているのだった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.42)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫

備考:ストーンヘンジの呪文はEXスキル使用中に、考えておいたもの。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.40)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪タクティカルサイト≫

EXスキル2:≪ブーステッドギア≫

備考:全身の筋肉が疲労しており、現在休息中。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.41)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫

EXスキル2:≪コンセントレイション≫

備考:イグニス・レギス・ソリスは文字通りの必殺技、対象を燃やし尽くすまで終わらない。なお追尾機能は無いため、発動してから範囲外に逃れることが出来れば回避可能。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.40)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫

EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫

備考:意識を取り戻し、急いでユークたちの元へ向かっている。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヘリオ(LV.65)

性別:男、女、男……(他多数)

ジョブ:召喚師、剣士、上級剣士……(他多数)

スキル:スキル:≪召喚魔法≫、槍の才、剣の才……(他多数)

備考:小さい頃、彼は英雄に憧れていた。


 しかし授かったジョブは、召喚したモンスターに戦闘を任せ、自分は後方で見守るだけの召喚士。

 その現実を前に、一度は英雄になる夢を諦めた。


 代わりに、英雄を作り出すことで間接的に夢を果たそうとしたが、やがてヴォルフの研究を知る。もしモンスターの力を吸収する技術が完成すれば、自分も再び英雄を目指せるかもしれない――そうひそかに期待した。だが、ヴォルフは姿を消してしまう。


 失意の中、彼に声をかける者たちがいた。

 それは魔族の復活を望み、魔族のもとで平等な世界を築こうとする“信奉者”と呼ばれる者たちだった。


 彼らは、魔族の肉体を得てしまった研究者ヴォルフを捕らえ、さらにその研究資料と、魔族の召喚石を所有しているという。


 ヘリオは迷った末、ヴォルフの身柄と研究資料を報酬として受け取るため、信奉者たちに協力する道を選んだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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