第174話 ミスリルゴーレム
ヘリオ博士との決戦に、ラピスたちが参戦したことで戦場の熱はさらに増していった。
巨大な肉体を揺らしながら、博士は不敵に笑う。
『はははは! どうしたんだい? 僕を足止めするんじゃなかったのか?』
巨体が足を振り下ろすたび、大地が沈むような衝撃が走る。博士はその体格を存分に活かし、幾度もユークたちを踏み潰そうと迫った。
「危なっ……!」
それでも、ユークたちは寸前で身をひねり、必死に攻撃を避ける。
(少しずつ動きに慣れてきた……! 俺たちが自分でかわす分、セリスやヴィヴィアンが動きやすくなる。ここで踏ん張らないと!)
額に汗を浮かべながらも、ユークは口元に笑みを刻む。
『なぜ避けられる? ……ふむ。では、これならどうだ?』
博士は大きな腕を構え、まるで格闘家のように拳を握る。
(構えた……? まさか格闘の心得があるのか? これまで一度もそんな素振りは……!)
ユークは詠唱を続けながらも、動揺を隠せなかった。
『それっ、ワンツー! ワンツー!』
博士の繰り出す拳は単純なパンチだった。しかし、その巨体から放たれた打撃は、基本の動きとは思えないほどの破壊力を帯びている。
「《ストーンウォール》!」
ユークは即座に詠唱を破棄し、横へ石壁を生じさせて強引に攻撃を回避する。
『ほう……これも避けるか。やはり机上の知識と実戦はまるで違う。……となれば、まずはあっちを先に……』
博士の視線が、装置に向かうラピスたちへと移る。
「セリス! ヴィヴィアン!」
ユークが鋭く叫んだ。
「うんっ! 『フォースジャベリン』!!」
「任せてっ! はぁっ!」
セリスが槍の疑似EXスキルを投げ放ち、ヴィヴィアンは盾を踏み込ませて博士の足の指を押し潰す。
『ぐあああああああっ!!』
巨体が揺れ、博士は苦痛に身をよじらせながら足を跳ね上げる。
(今のうちに……!)
ユークは急ぎ、次の詠唱を開始した。
『やはり、先に潰すべきは君たちだ……!』
再生によって傷を消し去りながら、博士は怒りを滲ませた声で見下ろす。
(このままじゃジリ貧だ! ラピスたちは!?)
背後に意識を向けた瞬間、その隙を博士が逃すはずもない。
『おやおや、ユーク君。よそ見している暇なんてあるのかな?』
振り下ろされる巨腕。
「ユーク君、危ない!」
割って入ったのはヴィヴィアンだった。盾を高く掲げ、その一撃を鋼の壁のように受け止める。
『また君か! 本当に邪魔ばかりして……!』
博士の怒声が響く。
「おあいにく様! 私は何度だってユーク君を守って見せるわ!」
ヴィヴィアンが挑発するように叫び返す。
『このっ……』
博士がさらに何かを言いかけた、その瞬間。
「《プロミネンス・ジャベリン》!」
アウリンの詠唱が終わり、灼熱の槍が空を裂く。炎の奔流は博士の上半身を焼き尽くし、巨体を揺さぶった。
『ぎゃああああああああっ!!』
絶叫が響く。
「今は攻め続けるしかないわ! みんな、博士をラピスたちの所に近づけさせないで!」
アウリンは仲間に呼びかけ、すぐさま次の詠唱に移った。
(頼む、ラピス……。早く装置を破壊してくれ!)
ユークは燃え盛る巨体を見据えながら、背後の仲間へと祈りを託す。
――その頃。
ラピスたちは部屋の隅にそびえる巨大な装置へとようやく到達していた。
「これが……例の魔石ね」
禍々しい光を放つ魔石を見上げながら、ラピスは息を呑む。
「いやー……デカいッスね」
ミモルが気楽そうに手をかざし、目を細める。
「みんな、さっそく――」
ラピスが仲間たちに向かって、振り返った瞬間。
地面が砕け、装置の周囲から三体のミスリルゴーレムが姿を現した。
「なっ……!?」
ラピスは目を見開く。
三体のゴーレムは無言のまま陣形を組み、装置を守るかのように立ち塞がった。
「な、なによこれ……!」
ラピスの声が震える。
『はははは! どうした? まさか装置に護衛を置かないとでも思っていたのかい?』
博士の嘲笑が部屋全体に響いた。
その直後、他の装置からも同じように三体ずつ、合計九体のゴーレムが現れる。
鈍い輝きを放つ巨体が、ラピスたちの前に立ちはだかり、威圧感を放っていた。
『今度は僕が足止めする番だ! 彼女達にあのミスリルゴーレムが倒せるかな?』
博士が吠え、さらに攻撃の手を強める。
「このままじゃラピスたちが……!」
ユークは焦燥を滲ませる。だが博士から目を離せば即座に命を落とす。戦場の空気は限界を超えて緊迫していた。
ラピスたちの戦いもまた絶望的な状況に陥っていた。
「駄目……全然効かない!」
ラピスが渾身の一撃をゴーレムに叩き込むと、甲高い金属音が響き、彼女に硬い感触を突きつける。彼女の槍は弾かれ、手のひらがジンジンと痺れた。
「EXスキルでもろくに効いてないっす、セリスさんは何でそんなに簡単にやれるんっすか!?」
刃こぼれした双剣を眺めながら、双剣使いのミモルが珍しく焦りを口にする。
「三体が連携してきて、抜くこともできない……」
口数の少ない弓使い、シシャスが呟いた。
ゴーレムたちの動きは連携が取れており、まるで生きているかのようだ。彼女の放つ矢は、ゴーレムが盾のように構える腕に阻まれてしまう。
「一体どうすれば……!」
強化術士のニキスが、剣を構えながら絶望的な状況に顔を歪ませる。
「早く壊さないとユークさんたちが!」
斧使いの少女シェナが叫び、必死にゴーレムに攻撃を仕掛けるが、その一撃はゴーレムの足元すら揺るがすことはない。
『はははは! 無駄だ! マナジェネレーターが壊れない限り、僕は無敵だ! だが君たちにはそれを破壊する力はない!』
博士の高笑いが戦場に響き渡る。
『つまり、君たちの勝ち目は存在しないということさ!』
博士の言葉に、ユークたちの胸にも重苦しい絶望が広がる。
だがその時だった。
部屋の入り口から新たな影が次々と現れる。
「む? どうやら戦闘の最中のようであるな!」
最初に姿を見せたのは、大剣を背負った帝国の騎士オライトだった。
「天蓋は発動している……先を越されたということですか」
冷静な声音で状況を見極めたのは、王国の騎士ルチル。
「無事か、ユーク君。ようやく戦えるくらいには回復した、ここからは俺も参戦する!」
怪我で別行動をしていたギルドガードのダイアスが、斧をかつぎながら大声で叫ぶ。
「「うおおおおおお!!!」」
そして、オライトに率いられた帝国兵たちが雄叫びを上げ、一斉に突入してくる。
「援軍……!?」
絶望的な状況を打破する予想もしなかった戦力の登場に、ユークは驚き
、大きく目を見開くのだった。
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ユーク(LV.39)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:今は俺自身も囮にしないと、博士をこっちに引き付けられない!
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セリス(LV.37)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:ユークったら、あんな近くで……大丈夫かなぁ。
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アウリン(LV.38)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:私だけ安全な後方で詠唱させてもらって、申し訳ないわね……
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ヴィヴィアン(LV.37)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:あからさまに無視されるようになっちゃったわ。やっぱり、不意打ちを食らってもピンピンしていたのが悪かったのかしら……
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テルル(LV.10)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:あやつらもう追いついてきおったのか!? じゃが、今は好都合じゃ!
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ラピス(LV.30)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪テラーバースト≫
備考:援軍!? 助かったわ!
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ヘリオ(LV.55)
性別:男、女、男……(他多数)
ジョブ:召喚師、剣士、上級剣士……(他多数)
スキル:スキル:≪召喚魔法≫、槍の才、剣の才……(他多数)
備考:ようやく吸収した魂がなじんできたよ。
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