第171話 カルミアの末路
「ユーク、博士はワシに任せてくれんか?」
テルルが口を開く。
「テルル……?」
ユークは彼女の顔を見た。その瞳には悲壮な決意が宿っていた。
「人のままであれば、説得も。だが、ああなってしまったからにはもう……」
テルルは悲しげに、そして決然と、人型の泥と化したヘリオ博士を見据える。
「ほう。どうするつもりだい? 確かに、このマッドマンは、マーダーエイプにすら劣る弱いモンスターだ……」
人の形をした泥が、不気味な笑みを浮かべる。
「だが、魔力がある限り何度でも再生することが出来るという特性は、人よりも多くの魔力を持つこの僕との相性は最高だ。そう簡単には僕を殺すことは出来ないと思うがね」
泥の隙間から泡立つような液体がにじみ出て、笑うたびにぼこぼこと泡が弾けた。
「……こうするんじゃ! 《《モンスター生成》》、魂喰い虫!」
テルルが突き出した手から、禍々しい光を放つ魔法陣が展開する。その中心から現れたのは、とげとげしく、銀色に輝く奇妙な虫だった。
テルル(LV.40)→テルル(LV.10)
一瞬にして、テルルから放たれる圧力がしぼんでいく。隣にいるユークは、その変化に息を呑んだ。
「テルル!?」
「大丈夫じゃ! 言ったじゃろう? モンスターを創り出すには、自身の魂を使うとな。こいつにはワシの三十レベル分の魂を込めた。これなら、ヘリオの奴に致命的なダメージを与えられるはずじゃ!」
心配するユークを安心させるように、テルルは力なくも確信に満ちた声で答える。
「魂喰い虫は、敵の魂を喰らうまで動き続け、役目を終えた瞬間に消える。命を燃やすモンスターじゃから、再び取り戻すことはできん。ワシの魂の欠片ごと、灰になるんじゃ!」
テルルは握った拳を震わせ、しかしその声には迷いがなかった。
「……なかなか面白い魔法だ。確かに、当たればこの僕であっても危険かもしれないね……」
博士は、その歪んだ笑みをさらに深くした。
「お前が罪を犯す前に引導を渡してやる! 行けっ! ワシの虫よ!」
テルルの号令と共に、銀色の虫が勢いよく泥の博士に突進する。
「そうはいかない。部下たちよこの僕を守れっ!」
しかし、その行く手を阻むように、モンスターと化した部下たちが壁のように立ちはだかった。
「どんなに強力な攻撃でも、届かなければどうしょうも無い。どうやら、ヴォルフ君のレベルを無駄に消費しただけで終わってしまったようだね!」
博士が嘲笑う。しかし、テルルは不敵な笑みを浮かべた。
「ワシのレベルを三十も込めたんじゃぞ? そんな単純な攻撃だと思うたか?」
モンスターの壁にぶつかる寸前、銀色の虫はあり得ない軌道を描いた。まるで意思を持っているかのように、モンスターたちの隙間を縫うようにして進んで行く。
「なっ!?」
博士がその異変に気づいた時には、すでに遅かった。虫は一直線に博士の胸部に着弾し、その泥の身体にめり込み、融合していた。
「ぎっ、がぁあああぁぁぁ……!」
博士の身体が激しく痙攣し、苦悶の声が喉から絞り出される。泥の身体は歪み、形を保てずに崩れていく。
「何だこれはぁぁぁ!!」
余裕という仮面は崩れ去り、声には驚きと怒りがそのまま刻まれていた。
「効くじゃろう? 魂に直接的なダメージを与えるモンスターの威力は!」
テルルはにやりと笑い、勝ち誇ったように指を突き出した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
博士の悲鳴が、実験場に響き渡る。
「全員――変身を解除してその身を僕に捧げろ! お前たちの魂を吸収して僕の魂を回復させる!」
苦しみに顔を歪めながらも、博士が叫ぶ。その声には有無を言わせぬ力がこもっていた。
「「「はい、分かりました博士」」」
次の瞬間、博士の部下たちは一斉に身を震わせ、まばゆい光の粒子へと姿を変えていく。その光は宙を漂いながら博士の元へと集まり、彼の体に吸い込まれていった。
『な……なんだよこれ……』
タイタンに変身していたカルミアは、その光景を呆然と見つめていた。
「ああ……痛みが引いていく……魂に直接作用すると聞いたから、魂の容量を増やせば耐えられると思っていたけど、これは予想以上の結果だよ……」
声を震わせ、恍惚に酔いしれるヘリオ博士。
『何を……何をやってんだよアンタは! アイツらはアンタの仲間じゃなかったのかよっ!』
カルミアが激昂する。
「仲間さ。だから僕の為にその身を犠牲にしてくれただろう?」
博士がカルミアに笑いかける。
「……まさか。俺を仲間にしたのも、そのためだったのか……?」
カルミアが震える声で尋ねた。
「そうとも。君も私の一部になるために選ばれたんだよ」
博士は口角を吊り上げ、愉悦に満ちた声で答えた。
「もっとも、その前に一番必要だったブラックドラゴンを失ってしまったことには失望してしまったけどね」
『ふざけるなぁっ!』
カルミアの目に、怒りだけではない、深い絶望が宿る。
『俺はユークに勝つためにアンタに協力したんだ! アンタの思い通りになってたまるかっ!』
怒りを爆発させたカルミアが、巨大な腕を振り下ろし、博士を押し潰した。
しかし、ぐしゃりと潰れたはずの泥の体は、瞬く間に元の異形へと再生していく。
「ふふふ、話を聞いていなかったのかな? 言っただろう? 僕を通常の手段で殺すことは出来ないって」
『馬鹿な……!』
カルミアが息を呑んだ、そのとき。彼のすぐ傍に、ひとりの女性が歩み寄ってきた。カルミアをここまで運んできた、あの女性だ。
「カルミア様……失礼いたしますね」
彼女は微笑みながら、カルミアの巨躯に小さな注射器を突き立てた。
『な……!?』
途端に、カルミアのタイタンの体が光の粒子に分解されていく。変身を解いていないにもかかわらず、強制的に体が崩れていくのを前に、カルミアは愕然とした。
『どうしてだ……!? まだ解除してないのに!』
博士は愉快そうに笑い、低く告げる。
「君には仕込む時間がなかったからね。直接、解除させてもらっただけさ」
その言葉に合わせるように、女性はマーダーエイプへと姿を変える。
『……お先に失礼しますね、カルミア様』
女性はそう言って変身を解き、光の粒子となって博士に吸収された。
『やめろ……! 俺はただ勝ちたかっただけなんだ! ユークに、それなのになんでっ!』
カルミアは絶叫し、裏切りへの怒りと悲しみを混ぜた声を上げ続けた。だが抗う術もなく、彼のモンスターの体も次第に粒子となり、空へと溶けていく。
『博士……てめぇ……! 俺を……利用しやがって……!』
恨み言を吐きながら、光に溶けていくカルミア。
『ユーク……すまねぇな。俺はただ、お前に勝ちたかっただけだったのに……』
しかし願いも虚しく、カルミアは完全に光の粒子となり、博士に吸収されてしまった。
融合の儀が終わったとき、博士は様々なモンスターが融合した巨大な怪物となっていた。
「あいつは、嫌な奴だったけど……そこまでされなきゃいけない理由なんて無かったはずだ!」
ユークは拳をぎゅっと握り、カルミアや多くの部下たちをを吸収した博士を睨みつけた。
「皆っ! 倒すぞ、こんな奴を野にはなっちゃダメだ!!」
ユークの言葉に、仲間たちが強くなずいた。
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ユーク(LV.39)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:必ずここで倒す!
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セリス(LV.37)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:あいつは嫌いだったけど、死んでほしかったわけじゃない!
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アウリン(LV.38)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:私のEXスキルで倒しきれるかしら……?
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ヴィヴィアン(LV.37)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:正真正銘これが最後の戦いね! 必ずみんなを守り切って見せるわ!
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テルル(LV.10)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:くそっ! ワシはレベルが落ちて戦力にならんっ!
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ヘリオ(LV.??)
性別:男
ジョブ:召喚師
スキル:??
備考:みんなで力を合わせて強くなる、王道だろう?
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カルミア(LV.13)
性別:男
ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ
スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)
備考:どうして俺はこんな奴を信用したんだ……
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