第170話 巨人化カルミアとの激突
「そろそろ行こうか」
ユークの言葉に、仲間たちがうなずいた。
短い休憩ではあったが、用意していた甘い菓子のおかげもあり、イスカとの戦いの疲れはかなり癒えていた。
ただ、一つだけ心残りがあった。
ユークは床に座り込むダイアスへと視線を向ける。
「俺は大丈夫だ。もらった薬もよく効いてる。動けるようになったら追いつくさ」
ダイアスはそう言って微笑む。
ユークは一度目を閉じ、仲間たちを見回した。
頷く者、手を振る者、笑顔を向ける者――それぞれが力強い反応を返してくれる。
「行こう! 博士のもとへ!」
ユークの声に続き、仲間たちは一斉に駆け出した。
一本道の通路を走り抜ける。テルルの案内は必要なかったが、彼女の銀の虫は索敵を続けている。
「通路に敵はいない。どうやら全員、奥の部屋に集まっておるようじゃ!」
テルルが走りながら報告する。
「わかった! ありがとう!」
ユークが礼を返した。
「見えてきた!」
通路の先に大きな扉が立ちはだかる。
「あれが……」
ユークはごくりと唾を飲む。イスカの変貌した姿を思い出し、この先でどれほど凄惨な実験が行われているのか、想像せずにはいられなかった。
「頼む、セリス!」
その想像を振り払うように、ユークは勘の鋭い彼女に先行を頼む。
「わかった! いくよっ!」
セリスは駆け出し、両開きの扉を思いきり蹴破った。
仲間たち全員が部屋の中へ飛び込む。
「……っ!」
目の前に広がった光景に、誰もが息を呑んだ。
そこはまるで巨大な実験施設だった。
天井は果てしなく高く、無数の実験装置が並び、壁一面に不可解な紋様と管が走っている。
床には巨大な魔法陣が描かれ、その中心に立つ者の姿があった。
「カルミアっ!」
「ヘリオ博士……」
ユークとテルルがほぼ同時に名を呼ぶ。
そこにいたのは、このアジトの主であるヘリオ博士。そして――黒いドラゴンに変じ、ユークたちに敗れたはずのカルミアだった。
「ギリギリで間に合ってよかったよ。さあ、見せてあげなさい……君の新たな力を」
博士が促す。
「ああ! これでユーク、お前より俺の才能が上だってことを分からせてやるよ!」
カルミアが吼えるように叫ぶ。
「カルミア……」
ユークは悲しげな瞳を向けた。
次の瞬間、カルミアの体が急激に膨れ上がっていく。
『はははははっ! 見ろっ! これが俺の力だ! この力で俺は……!』
完全に変貌したカルミアは、まるで小山のようにそびえ立つ巨人――タイタンとなっていた。
「……でかい」
ユークは思わず見上げて呟く。
「あれはタイタンじゃな。巨人族の中でも特に巨大な怪物で、確かレベルは四十五だったはずじゃ!」
テルルが解説する。
「ヴィヴィアン、あれを!」
ユークが指示を飛ばす。
「わかったわ!」
ヴィヴィアンが“転移封じの天蓋”を発動させた。
魔道具を中心に半透明の結界が展開し、広大な部屋も、巨大化したカルミアさえも覆い尽くす。
「よし、これでもう、博士は転移で逃げられないはずだ!」
ユークが小さく笑う。
『何をごちゃごちゃと話してんだ! 俺を無視するんじゃねえええ!』
怒号とともに、巨人となったカルミアが足を振り下ろした。
「っ……でかい!」
ユークが叫ぶ。
「攻撃範囲が広すぎる……これじゃ避けきれないわ!」
アウリンが声を上げた。
「私に任せて!」
ヴィヴィアンが立ちふさがり、巨大な足を受け止める。鎧から圧縮された空気が漏れ出すほどの重圧。
「おおおおおっ!」
気合いと共にヴィヴィアンが押し返し、カルミアの巨体がよろめいた。
『なっ! 俺の攻撃を防いだ!?』
驚愕の声を上げるカルミア。
「はあああああっ!」
セリスが飛び込み、タイタンとなったカルミアの足首を切り裂いた。
「ぐあああああああっ!」
足を失ったカルミアは地に倒れ込み、苦悶の叫びをあげる。
「うーん、でかいだけじゃない?」
セリスが肩をすくめた。
黒竜と化した彼を倒したユークたちにとって、巨体だけのタイタンはもはや脅威とはならなくなっていた。
「……やはり、こうなったか」
博士がため息を漏らす。
『博士!? 違うんだ、これは!』
カルミアが必死に叫ぶ。
「いいさ、もともと無理だとは思っていた。それに、これ以上続けて君のタイタンまで失ったら元も子もないからね……」
そう言う博士の身体が、ゆっくりと溶け崩れていく。
「なにっ!?」
アウリンが目を見開く。
「ひっ……!」
ヴィヴィアンが声を上げる。
「人……じゃない……?」
ユークが息をのむ。
「あれは……マッドマンか……」
テルルが低く告げた。
「そうさ。僕は実験を終え、ヴォルフ君……君と同じになったのさ」
完全に人型の泥と化した博士が、歪んだ笑みを浮かべる。
「さあ、ここからは選手交代だ」
その合図と共に、部屋の周囲に潜んでいた博士の部下たちが次々と姿を現し、怪物へと変貌していく。
「……囲まれたか」
ユークが低く呟く。
「ユーク、博士はワシに任せてくれんか?」
テルルが口を開く。
「テルル……?」
ユークが彼女を見た。
その瞳には、悲壮な決意が宿っていた。
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ユーク(LV.39)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:今さらどうするつもりだ? まわりを見ても大したモンスターはいないみたいだけど。
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セリス(LV.37)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:カルミアったら、あんな姿になってまで何がしたかったんだろう。
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アウリン(LV.38)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:すごいわね……まるで最初から、あの巨体が動けるように部屋を設計していたみたい。
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ヴィヴィアン(LV.37)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:転移封じの天蓋は触れた魔法を魔力に戻す効果を持った半透明の壁をドーム状に展開する魔道具よ。
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テルル(LV.40)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:もう手遅れじゃったか……せめてワシが引導を渡してやろう。
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ヘリオ(LV.??)
性別:男
ジョブ:召喚師
スキル:??
備考:マッドマンというのは、人間の姿に擬態し、さらに自らの魔力を用いて肉体を再生する性質を持つ魔物だ。
ただし野生に見られる個体は、その擬態も粗雑で、魔力もごくわずかしか持っていない。つまり再生能力もすぐに限界を迎えてしまうんだ。
結論としては、レベル十ほどの実力があれば十分に討伐可能な、さほど脅威ではないモンスターということだね。
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カルミア(LV.13)
性別:男
ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ
スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)
備考:何でだ! 何で俺はユークに勝てねぇんだ!
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